【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#12

第3話「Twitter男を調査せよ!」

3rd ミキと周藤、再び熊谷へ。
#12

マークXは、中山智史の行動調査のために、再び熊谷に向かっていた。
​運転はいつも通り周藤。わたしは助手席でiPadを握りしめている。
今日も朝6時半の出発で、瞼が重たい。
意識はまだ少し鈍いけど、前回の調査を振り返っていろいろなことを考えていた。
先週、中山の様子を見た限り、足が完治しているということはなさそうだった。松葉杖を使う生活で、不自由そうに見えた。
交際相手とみられる女性のサポートがなければ、かなり不便な毎日だろう。
一緒にいた女性は、中山のFacebookアカウントの「友達」にいた西田亜美という人物だと思われる。中山とは年齢も地元も一緒のようなので、同級生だろうか。
中山のFacebookとTwitterには、先週末にも書き込みがあった。そしてそれは、一貫して、「自分が元気であること」をアピールしているような内容だった。
事故で負った怪我で会社を休んで、休業補償をもらっている身なのに、いったい、なんのためのアピールなのだろう? その目的だけが見えない。
マークXがゆっくりと中山の自宅に近づいて、そのまま通り過ぎる。ハスラーが停まっていた。
今日はでかけていないようだ。今のところ、SNSへの書き込みもない。
そういえば、まだ中山の母親を見ていない。中山は母親と2人暮らしのはず。今回の調査では、彼女にも接触する必要がありそうだ。
「これから、中山が働く工場に乗り込むぞ」
周藤が言葉を発した。
「わたしもそうしたいと思っていました」
正体を明かさずに調査対象者の周辺で聞き込みをする方法もあるけど、今回はそうしなくて良いように思えた。中山が不正をしているような気がしないからだ。
中山の勤務先は、熊谷市内にある和菓子の製造工場だ。
確かに、立ち仕事であれば、松葉杖では作業が難しいというのは想像できる。
だが、実際はどうなのだろう。立ち仕事ではなくても、やれることはあるのではないだろうか。
確かに、先日の調査で見た状態では、通勤が難しいというのは理解できるが……。
とにかく、話を聞いてみよう。
わたしと周藤は、中山が勤務する工場に向かった。
かなり大きな工場だった。
保険会社からの正式な依頼を受けているし、わたしたちの会社、総合保険調査会社「インスペクション」には正当な調査権限がある。公安委員会から探偵業届出証明書を交付されているのだ。
聞き込みや尾行、張り込みなどは、探偵業務の範囲内だと規定されている。
工場に正式に、調査の申し込みをした。
いま工場長は外出していて、2時間後なら対応できるという回答だった。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]