【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#13

第3話「Twitter男を調査せよ!」

3rd ミキと周藤、再び熊谷へ。
#13

わたしたちが受付で待っていると、真面目そうな中年男性が小走りで現れた。
「どうも、工場長の金沢です。東京からだというのにお待たせしましたね」
誠実な人柄が外見にもにじみ出ている。
「お忙しいところすみません。保険会社の依頼を受けて、中山さんのことを少し調べさせていただいておりまして」
金沢の顔が曇った。
「そうですか、長引いていますからね」
周藤が切り出した。
「休業されてからは何度か面会されていますか」
金沢が大きく頷いた。
「あいつはまじめな男でして、頻繁に報告に来ているんですよ」
わたしと周藤は顔を見合わせた。
「そうでしたか」
金沢が話を続ける。
「大怪我だったので心配しましたが、順調に回復している様子で、ほっとしています」
周藤がお茶に口をつけた。
「少し気になっているのですが……順調に回復しているのであれば、座ってできる仕事を任せるという選択肢もあるのではないでしょうか」
周藤が再び切り込んだ。
「わたしたち、いいえ、わたしが、無理をするなと言ったんですよ」
「なぜですか?」
周藤よりも先に、わたしの方が声をあげていた。
「医者は、中山に、まだ休業して療養すべきだと言っている。こちらは間違いありませんよね」
わたしたちは医師に直接確認した訳ではないが、頷いた。
「それを聞いて、だったら無理をして出勤する必要はないなと。中山は怪我をしていて車の運転ができず、通勤が難しいわけですし、いまはお母さんが大変な状況ですし」
わたしが聞く前に、今度は、周藤が金沢の会話を遮って質問した。
「お母さんが大変と言いますと」
金沢が目をぱちくりさせた。
「そうですね、お2人がご存じないのも当たり前かもしれませんね」
金沢がお茶に口をつけた。
「中山のお母様は、女手ひとつであいつを育て上げた立派な方です。そのお母様が、いま、入院しているのです。昨年、大きな病気が見つかったそうで……」
わたしと周藤は、再び顔を見合わせていた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]