【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#15
第3話「Twitter男を調査せよ!」
3rd ミキと周藤、再び熊谷へ。
#15
わたしと周藤は、調査対象者の中山智史に直接接触することにした。
中山の上司である金沢に話を聞いて、だいたいの事情はわかった。彼が嘘をついているようには思えなかったが、中山の人となりを直接確かめたい。
それに、このまま本人と接触せずに調査を終えたところで、どちらにせよ、私たちの存在は、金沢から中山に伝わるだろう。今回の依頼主である保険会社の担当者、西野からは、本人との接触も許可されていたし。
これまでの調査から、中山が不正受給を行っている可能性は低いと感じている。もちろん、決めつけるようなことはできないけど。
工場を後にして、中山の自宅に到着すると、パッションオレンジのスズキ・ハスラーは停まっていなかった。留守だろうか?
中山のSNSアカウントをチェックするが、Twitterで、熊谷市内のレストランで食事をしたことをつぶやいた後、投稿がなかった。
念のため、インターホンを鳴らす。何の反応もない。
「一度だけ、行ったことがあるつけ麺屋がある」
突然、周藤が言った。
その言葉が耳に入ってから、食事に誘われているのかもしれないと気づくまでに、少し時間がかかった。
「え、あ、つけ麺、大好きです。ぜひ」
周藤のほうに目をやったが、恥ずかしいからなのか、目を合わそうとはしない。
「お前の口に合うかは知らないがな」
周藤が冷たい口調ではき捨てた。
マークXは、407号線に出ると、一気に加速する。
周藤と一緒にどこかの店に行って食事をするなど、初めてだった。
ほどなく、「道の駅めぬま」の駐車場に入る。敷地内に行列が出来ていた。
「ここだ」と、周藤が言った。
「すごい、人気店ですね」
正直、周藤に行列のできるような店に連れてきてもらえるとは思っていなかった。暖簾をくぐって店内を見渡すと、意外にスペースが広い。紙に名前を書き、列に加わった。
席を待っている間も、わたしはiPadを離さなかった。もしかしたら、中山に動きがあるかもしれないのだ。
ラーメン店は回転がはやい。15分も並ぶと、席につくことが出来た。
「辛つけ」や「カレつけ」もあったけど、周藤のすすめで、スタンダードなつけ麺にする。ただ、わたしは大盛りの400グラムにした。中盛り300グラムにした周藤が、「お前、よくそんな食えるな」と引いている。
わたしはれんげをスープに差し入れた。どろっとした、濃厚なタイプだ。魚介とんこつ系だろう。
うん、おいしい。
周藤はこう見えてグルメなのかもしれない。
「わたしの好きな味です」
嬉しくて微笑みかけたけど、周藤はズルズルと麺をすすっている。特にリアクションはない。
やっぱり、つれない男だ。
(続く)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:mizusawaさん
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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