【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#20

第3話「Twitter男を調査せよ!」

4th バレンタインに何かが起きる!?
#20

わたしは、東銀座にある河口綜合法律事務所に向かった。河口仁に予定を聞いたら、事務所にいるというので、そこでチョコを手渡すことにしたのだ。昔から、休日でも仕事をしていることが多かった。
​応接室に案内される。
「仁先生、いつもありがとうございます。わたしの気持ちです」
奮発した「ジャン=ポール・エヴァン」の「ボワットゥ ショコラ」を手渡すと、仁は嬉しそうにはにかんだ。
「ミキちゃん、ありがとう。毎年ね、誰よりも嬉しいよ」
袋の中を覗き込んだ。
「妻なんかはもうくれないからね」
仁が自嘲気味につぶやいて、2人で笑いあう。
「仁先生のおかげで、毎日充実した生活をさせていただいています」
仁が苦笑いを浮かべた。
「インスペクションを紹介して、本当に正解だったのかな……。本当は秘書にさせるつもりだったんだけど」
「はい、間違いありません。大正解ですよ。今だから言いますけど、初めから調査員をやりたかったんです」
「やっぱり、最初からそのつもりだったのか」
仁の表情が強張った。
「黙っていて、ごめんなさい。最初から調査員になりたいって言ったら、紹介してもらえないかと思って……」
仁が大きくため息をついた。
「それで、その後、仕事はどうだい? 脅迫事件はもうすっかり解決したのかな」
前回の調査では、LINEメッセージで脅迫されたり、怖い人に車で連れまわされたりという目に遭った。周藤が助けてくれなかったら、どうなっていたかわからない。
「その節はご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
仁の不安を払拭するために、満面の笑みで答えた。
「まあ、あの優秀な周藤君がついていれば安心だと思ってはいるんだけどね」
河口仁もやはり、周藤のことを高く買っているようだ。
「ところで、今年は本命にチョコはあげられそうかい?」
仁が少し冷やかすような目を向けてきた。
「さあ、どうでしょうね」
わたしは意地悪で思わせぶりな表情で返した。
「え、なに。もしかして、恋人ができたのかい?」
仁が真顔で聞いてくる。
「恋人はできていません。でも、この後、素敵な方に食事に誘われています」
「バレンタインの夜に、デートか。先を超されたな。でも、ホワイトデーの夜はわたしが先に約束しているから、忘れないでくれよ」
わたしは小指を立てて指きりのポーズを取ったけど、仁は不安げに苦笑いしたままだった。デートの相手が気になるのかもしれない。でも、相手との約束で言わなかった。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]