【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#21

第3話「Twitter男を調査せよ!」

4th バレンタインに何かが起きる!?
#21

わたしは、河口綜合法律事務所を後にすると、デパートで時間をつぶしてから、銀座の人気イタリアンに向かった。
​銀座一丁目寄りにある、前から行ってみたかった店だ。
河口純に、「大切な話があるから、食事でもしながら」と誘われていた。仕事の話だろうか。
でも、純には長く付き合っている恋人がいるのに、バレンタインデーの今日にわたしと食事なんて、いいのかなと心配になる。
5分前に到着すると、すでに純が席についていた。わたしを見つけて手を上げる。
レストランで食事ということで、ジャケットは着ているが、カジュアルな私服だ。スーツでないということは、今日はきっと事務所に行っていないのだろう。
「やあ、父には会えたかな?」
「はい、さっき、事務所で例のものをわたしてきましたよ」
「喜んだだろうな。あの人、毎年楽しみにしているから」
わたしは、河口仁の言葉を思い出して笑いそうになった。
「先に、純先生にも、プレゼント。いつもありがとうございます」
純にも早速バレンタインのチョコを渡す。選んだのは「ドゥバイヨル」の「ピュール サブール デフュレ コレクション」のものだ。
「ありがとう。でも、今日は仕事じゃないんだからさ、『先生』も敬語も、本当にやめようよ」
「うん、わかった」
純の言っていた「大切な話」って、仕事のことじゃないのかな? もしかしたら仕事の話かもしれないと思っていたのに、仕事モードはやめようといきなり言われてしまった。
チョコのパッケージを見て、純が目を丸くした。
「あれ、昨年までのチョコよりもランクアップしている気がするな」
純には確か、小学生の頃から毎年チョコを上げている。
「今年はちょっと関係が違うから」
「え、違うって」
「いまは仕事でもお世話になっているから」
「ああ、そういうことか」
メニューのオーダーはすべて純に任せた。スパークリングワインで乾杯する。
コースなので、まずは前菜が運ばれてきた。
「わあ、美味しそう! いただきます」
それにしても、大切な話って、いったい何だろう。
「そういえば、純君はいまもポルシェに乗っているの?」
「うん、そうだよ。今度、ドライブでもどうかな? ヨタハチもいいけど、何なら運転させてあげるよ」
「嬉しい! 実はいま、ヨタハチは修理に出しているところなんだ」
「そうなんだ」
料理はどれも美味しい。
「ところで、今日は大事な話があるって言っていたよね」
わたしが話をふると、純が急に真顔になった。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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