【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#22

第3話「Twitter男を調査せよ!」

4th バレンタインに何かが起きる!?
#22

わたしは2月14日の夜、河口純と銀座のイタリアンレストランにいた。
​バレンタインデーに男性と2人で過ごすなんて、久しぶりだ。
店内を見ると、カップルばかり。でも、こんなイケメンを前にしている女子は他にはそうそういない。
しかも、イケメンなだけでなく、純は弁護士なのだ。「なんか、かっこ悪いから」と言って、仕事の時でさえも弁護士の金バッジをつけていないから、純の職業なんて、ここにいる誰にもわからないけど。
「実はさ、前回の調査で、ミキちゃんの身に危険が迫ったときに、俺、思ったんだよね」
純がわたしの目を見つめて話し始めた。
「え、何を?」
わたしは、ナプキンで口の汚れを拭ってから聞いた。
「俺が、ミキちゃんを守ってあげたいって」
思わず笑い声を上げてしまった。
「俺が守らなきゃダメだって」
真顔でもう一度言われる。
「純君ってば、冗談でしょ。酔っているの?」
でも、純は真剣な表情のままだ。
「俺は本気だよ。交際を考えてほしいんだ」
わたしは言葉を失ってしまった。
「あと、今日は酒飲んでないよ。車だし」
さっき、乾杯の時に純が飲んでいたスパークリングは、ノンアルコールのものだったのか……。動揺して、そんな余計なことを考えてしまう。
「だって、純君、いま、確か恋人がいるでしょ?」
わたしは赤ワインを飲み干す。
「いや、先週、別れたんだ。好きな人が出来たって伝えた。ずっとそばにいた人……ミキちゃんが、自分にとって本当に大切な人だって、やっとわかったんだよ」
何が起きているのか、まだ飲み込むのに時間がかかりそうだ。
「突然で、驚いただろうけど、ゆっくり考えてみてほしい。焦らせるつもりはないからさ」
信じられない。でも、純が冗談でこんなことを言うわけがない……。
店を出た後は、純の96年式ポルシェ911カレラ、通称993で家まで送ってもらうことになった。
純は運転がうまい。心地よくシートに身を委ねていると、あっという間に家に到着した。
「ありがとう。ご馳走になって、家まで送ってもらっちゃって」
「話したこと、ちゃんと、考えてよ」
わたしはコックリと頷いた。少し恥ずかしくなってくる。
「じゃあ」と言って、カレラから降りてドアを閉める。
クラクションを鳴らして、ターコイズブルーの車体が走り去った。純が実家を出て一人暮らしをしている、勝どきのタワーマンションに帰るのだろう。
カレラのリアを眺めながら、わたしはついニヤけてしまった。もしかしたら、いま、わたしに、人生最大のモテ期が来ているのかもしれない。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]