【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#26

第3話「Twitter男を調査せよ!」

5th​ ヨタハチに残されたもの。
#26

わたしは、父がヨタハチに隠したという手紙を読むために、水野の旧車ショップを訪れていた。
​「これなんだ」
水野がデスクの上の汚れた封筒を手にすると、テーブルの上に差し出した。わたしはおそるおそる手に取った。
宛名には、確かに、[上山未来様へ]と書かれている。
裏返すと、[上山弘樹]とある。
白い封筒に模様を作ったのは、オイルかなにかだろうか。すごい染みが出来ている。本当に父からの手紙だとしたら、10年以上前からヨタハチに埋まっていたのだから、こんなふうに汚れているのも無理はない。
「もしかしたら、文字が読めないってこともあるかもしれないな」
水野がくわえかけていたタバコを外して言った。
「そうですよね」
わたしは宛名の字を見つめていた。懐かしい、父の筆跡だ。封筒を裏返すと、封をした上にバツがつけられている。
「なにが書いてあるんだろうな。俺はとにかく、手紙をミキちゃんに渡すのが筋だと思ったけどさ、読む、読まないはミキちゃんの自由だよな。正直、見ない方がいいってこともあるかもしれない」
水野がやっとタバコに火をつけた。
「でも、読まないわけにはいきません」
ここまで来て、やっぱり封を開けないなんて、できるはずがない。
水野が天井を見上げた。立ち上がると、デスクから、ハサミを持ってきてくれる。
「ありがとうございます」
わたしはそのハサミを使って、中身を傷つけないようにしながら慎重に、古びた封筒の端をゆっくりと切った。
そして、中を覗いてから、四つ折りになっていた便せんを引っ張り出す。ひと呼吸置いてから開くと、便せんがパリパリと音をたてた。
全部で、3枚あるようだ。
「あ、俺は外そうか?」
水野が聞いてきた。
「いえ、どうか、そこにいていただけると助かります」
水野はゆっくりと頷いて、あげかけた腰をまたおろした。
便せんに目をやると、どうやら、文字は判別できそうだった。
3枚目の最後に、10年前の日付がチラッと見えた。
「やっぱり、10年前に書かれたみたいです」
わたしは自分が涙声になっているのに気づいた。目頭を押さえる。
「そうかい」
水野は、優しい眼差しで包み込むようにこちらを見ていた。
わたしは、大きく深呼吸して、便せんに向き合った。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]