【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#27

第3話「Twitter男を調査せよ!」

​5th​ ヨタハチに残されたもの。
#27

わたしは、父がヨタハチに隠した手紙をついに読み始めた。
​まずは1枚目の便せん。

<これを読んでいるということは、ヨタハチに忍ばせた手紙が発見されてしまったということだな。ミキが自分で見つけたということはまずないだろう。きっと、誰かが見つけて、お前のところに渡ったんだろうな。いま、ミキは何歳なのかな。この手紙が読まれているとき、俺は、もしかしたら、もうこの世にいないのかもしれない。なんだか、そう考えると不思議な気分だ。>

明らかに父の言葉だ。父がわたしのすぐそばで語りかけてくれているようだった。
2枚目の便せんに進む。

<どうしても伝えたいけど、伝えづらいことがある。だから、この手紙を書いた>

続く文章にわたしは衝撃を受けた。

<実はな、長男の雄紀と違い、お前と俺は血のつながった親子ではないんだ>

わたしの頬を熱いものが流れ落ちて、便せんに大きな染みをつくった。
「やっぱり、席を外そうか」
目を上げると、水野が心配そうにこちらを見つめていた。
「いいえ、そこに、いてください。お願いです」
必死に答えると、水野が頷く。わたしは、先を読み進める。

<俺がこれを書いているいま、ミキは17歳だ。この話を受け止めるにはまだちょっと早い気がする。だから、20歳になったら、様子を見ながら打ち明けようと思っている。たださ、人生には、万が一ってことがある。もちろん、このことは、俺の口から直接話したい。でも、何があるかわからないだろう。そのために、いま、俺はこの手紙を書いている。つまり、これは保険だな。保険屋の父さんらしい手口だろ(笑)。まあ、笑えない話か。>

バカじゃないの? うまいこと書いたつもりだろうけど、ぜんぜんうまくないし……。
ショックだけど、不思議と、父と母に対してネガティブな感情は湧いてこなかった。
震える手で、3枚目の便せんに移る。

<何が言いたいかというと、俺はどこに行っても、例え、この世から消えてしまったとしても、お前のことを誰よりも愛しているということだ。それだけはいつまでも忘れないでほしい。この手紙をミキが見る前に、お前の父親について母さんが話している可能性もあるな。もしも打ち明けていないなら、きっと葛藤があるからだろうけど、問い詰めたりはしないで欲しい。もし俺がいなくなったとしても、母さんと雄紀とみんなで仲良くしてくれ。じゃあな。>

また大量に涙があふれ出る。止まらない。いつの間にか隣に座っていた水野がそっとハンカチを貸してくれた。
水野の肩に頭を預ける。水野が、わたしの肩にそっと手をおいてくれた。わたしは、水野の胸の中で号泣した。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]