【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#28
第3話「Twitter男を調査せよ!」
5th ヨタハチに残されたもの。
#28
わたしは、水野が運転するトヨタ・2000GTの助手席に座っていた。
父からの手紙を読み、動揺したわたしが落ち着いた時には、もう終電が迫っていたのだ。タクシーで駅まで向かうつもりだったけど、水野が車で送ってくれた。
何度も、「駅までじゃなく、家まで送って行こうか」と心配され、断ったのだが、結局、駅をあっさりと通り越して、水野はわたしの自宅に向かい始めた。
自宅に戻るのは少し怖かった。父と血のつながりがないという事実を知ってしまったいま、母とどんな顔をして会えばいいのだろうか。
気づくと、わたしは何度もため息をついていた。
水野は気遣ってくれているのか、手紙の内容を聞いてこなかった。手紙を渡そうとしても見ようとしない。
ひとりでは抱えきれなくて、「父と血がつながっていないそうです」と伝えると、ただ頷いていた。
いまも、何も言わずに車を走らせてくれている。
家が近づき、口頭で案内をして、門の前に到着した。
「本当に、遅くまでつきあわせてしまって、ごめんなさい」
「いいんだよ。こんなことは、めったにあることじゃない。明日は仕事だろうけど、今夜はゆっくり休むんだよ」
わたしは頷いて、ドアに手をかけた。
「お母さんと話すのは、時間をおいてからにした方がいいと思うよ」
振り返り、水野の顔を見つめた。
「わたしもそう思います」
2000GTはクラクションを鳴らすと走り去っていった。美しい曲線を描く車体が夜の闇にとけて消える。
さすがに母はもう寝ているだろう。鍵を開けて、ドアの間に身を滑り込ませる。家はしんと静まり返っていた。
リビングの電気をつけると、テーブルの上に置き手紙を見つけた。
<おかえり。突然だけど、友達に誘われて、しばらくヨーロッパに遊びに行くことになったから。家のことはよろしくね。仕事、随分と忙しいみたいだけど、あんまりムリをしないでよ。ちゃんと寝なさいね。あと、ヨタハチを修理に出していて車を使えないみたいだから、私のジュリエッタを好きに使っていいわよ。事故ったら弁償だけどね>
ウソでしょ。なんなのそれ……。
母は旅行が好きで、ふらっと出て行くことはこれまでもよくあった。でも、今回は、あまりにもタイミングがいいような気がする。
母の携帯電話にかけてみる。でも、つながらない。
わたしはソファに倒れ込んだ。
(続く)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:mizusawaさん
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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