【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#5

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

2nd ミキ、悩める乙女に!?
#5 ​真由子と待ち合わせ​

その夜は、親友の成田真由子と目黒駅前で待ち合わせをしていた。
​わたしは5分前に到着していたけど、真由子は3分遅れのタイミングで小走りでやってきた。
「ごめんごめん」
「まあ、真由子にしては早いけど。とりあえず急ごう」
今日は、人気のビストロに予約をしている。
駅前から5分も歩くとお洒落な外観が見えてきた。店は客の姿でいっぱいだ。
食べたいものをどんどんオーダーする。ちょっと頼み過ぎたかもしれない。
「で、相談って、なに?」
真由子が切り出してくれた。
「軽めのやつと重めのやつ、どっちからがいい?」
真由子が苦笑いしながら、腕を組む。
「じゃあ、軽めからで」
よかった。わたしとしても、そっちの方が話しやすい。
「まずね、意外な人から、告白されちゃった」
わたしが言った瞬間に、真由子が大きな声をあげた。
「え、もしかして、元刑事?」
「違うよ。そんなわけないじゃん」
わたしはまわりを気にして、声のトーンを落として答えた。
「え、じゃあ、同期の彼?」
桜川の顔が頭をよぎる。
「あ、うん、彼にも、デートに誘われた」
「え、なにそれ、彼にも?」
もったいぶるのもよくないかもしれない。
「うんと、告白されたのは、河口総合法律事務所の純君。会ったことあるよね?」
また叫び声をあげるかと思っていたら、今度は静かだ。
「あんた、まさか、あのイケメン弁護士を落としたの?」
「いや、そういうんじゃないけど。向こうが、わたしを守りたいって……」
真由子は口を開けたまま止まっている。
「ああ、もうやってらんない。相談に乗ってって言うから来てみたら、自慢話ばっかり」
「ごめん、そういうつもりじゃないんだけど」
確かに、鼻につく言い方だったかもしれないと反省した。
「じゃあどういうつもり? 軽い相談って、なんなのこれ」
「重い方の相談は、これ」
わたしは手紙を取り出した。
「わたしのお父さんからの10年越しのラブレター」
「え、10年越しって、タイムカプセルにでも埋まっていたの?」
「説明するの、ちょっとつらい。読んでみて」
ふて腐れていた真由子の表情が、手紙を読み進めるうちに、みるみる変わっていく。
ついに、3枚目だ。
真由子が口を押さえた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]