【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#7

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

2nd ミキ、悩める乙女に!?
#7 ​桜川とドライブ

週末、わたしはアルファロメオ ジュリエッタで馬込駅前に向かった。母が3年前に買った、きれいな赤い車。やはり、イタリア車なだけあって、デザインが細部までお洒落だ。
​馬込は五反田まで乗り換えなしで行けるアクセスのいい場所なので、インスペクションの社員で住んでいる人がけっこう多い。
駅前のロータリーで、待ち合わせ相手の桜川を見つけた。と、同時に相手もこちらに気づく。
私服姿の桜川が近づいてきた。いつも目にしているのはスーツ姿だから、新鮮だ。デニムに合わせたダッフルコートとマフラーがかわいい。
パワーウィンドウを下げた。
「どうぞ。座席はそっちなんだけど」
母のアルファロメオは左ハンドルだ。桜川が、車の通りを気にしつつ、助手席に乗り込んできた。
「ごめんね、わざわざ迎えに来てもらって」
「そんなの気にしないで」
桜川がシートベルトを締めるのを眺めていると、不思議そうにこちらを見つめ返された。
「どうしたの?」
いままで、助手席に男性を乗せて運転することがほとんどなかったので、なんだか不思議な気持ちなのだ。でも、あまりそういうことを言わないほうがいいかもしれない。
「私服の桜川さんを見たのは初めてだから、新鮮で」
「あ、そっか。そうだよね」
桜川が照れ笑いを見せる。
「じゃあ、安全運転で行くね」
この車は何度か運転したことがあるし、保険も適用される設定だけど、慣れない左ハンドルだ。傷つけたりしたら、絶対に後で母に怒られる。
あまり遠出をする時間はなかったので、羽田空港に行くことにした。
第二京浜を使って、環八通りで折れてからはそのまま真っ直ぐだ。カーナビを使うまでもない単純な道順だった。
国際線ターミナルビルにはおしゃれなお店も入っているので、たまに行くことがある。なんといっても景色が素晴らしいのだ。
4階にあるカフェに入る。座って、気になっていたことを聞いてみた。
「前の彼女とはどうして別れちゃったの?」
桜川が目を伏せた。
「ごめんなさい、言いたくないよね。そんなこと」
すぐに言葉を取り消そうとした。
「いや、結婚の話が出たんだけどさ、いろいろ詰めていくうちに、お互いの理想の結婚生活についてズレが明らかになってきたっていうか」
「なんとなく、わかる気がする」
いや、結婚を考えた恋愛など経験がないわたしは、そんなことを言える立場ではなかった……。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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