【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#9

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

2nd ミキ、悩める乙女に!?
#9 ​周藤が怪しい!?

思わぬ名前が出てきて驚いたけど、なんとか言葉を発した。
「周藤さんが、なに?」
「言いにくいけど、周藤さんが怪しいんじゃないかって」
いや、それはない。そもそも、スパイの話を持ち出してきたのは、当の周藤なのだ。
「それは絶対ないよ」
それに、わたしは周藤のすぐそばで働いてきたのだ。危ない瞬間を何度も助けてもらった。その周藤がスパイだなんて考えられない。
「周藤さんはスパイじゃない、か。その根拠は?」
桜川が真顔で聞いてきた。
「え、と、根拠か」
なんと答えればいいのかわからない。
スパイがいるかもしれないと言い出したのが周藤だということは、桜川に伝えるべきではない気がする。
「噂のことなんだけど。周藤さん、僕らが入る前から、個人行動がすごく多かったみたいなんだ」
桜川が周藤に対する疑いの根拠を話し始めた。
「社長がどうしてもうちの会社に来てほしいってお願いして働き始めたから、周藤さんの個人行動について強く言えなくて、悩んでいたみたい。それで、監視役というか、そういう存在としてミキちゃんをパートナーとして組ませたんじゃないかって」
桜川がこちらをじっと見る。
「ミキちゃんと行動するようになってからも、周藤さんは単独行動が多いよね?」
そう言われて気づいた。確かに、周藤には謎の行動が多い。わたしは周藤の下について、いろいろな案件の調査に加わっているけど、ずっと一緒に行動しているわけではない。
「周藤さんは、あまりにも行先不明な外出が多すぎる。それなのに、みんなの何倍も給料をもらっているって噂なんだよ。扱っている案件数で考えたら、不公平なんじゃないかって声も出ている」
桜川の言葉には、周藤に対するネガティヴな感情がこめられている気がした。
スパイ調査に協力してもらうつもりだったけど、この様子だと、お願いすることは難しそうだ。
気がつくと、桜川の家の前に着いてから、すでに1時間近くが経っていた。
「とりあえず、今日はもう遅いし、また今度相談に乗ってね」
「今日、プライベートで誘ってくれたのかと思って舞い上がっていたけど、ちょっと違ったみたいだね」
「え、あ、確かに、仕事の話ばっかりしちゃったね」
「まあ、いいんだけどさ」
桜川は車を降りると、笑みを浮かべて、わたしに向かって手を振った。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]