【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#11
第4話「スパイ事件を調査せよ!」
2nd ミキ、悩める乙女に!?
#11 食べ物に罪はない
結局、インスペクションの社員は、1人千円出せば特上寿司を食べられることになった。
本当は1人前2800円だったけど、交渉して半額の1400円にしてもらい、さらに400円分は松井社長が払ってくれることになったのだ。
会議室には人が溢れていた。たぶん、30人はいるだろう。
会社に届いたのは、5人前ずつ入った寿司桶が10個。そのうちの8個が、テーブルに並んでいる。大至急、お湯を大量に沸かして、コーヒーカップでお吸い物も作った。
「美味しい!」
寿司がどんどん、みんなの口の中に消えていく。
さすが特上寿司、美味しくて笑顔になってしまうけど、なんだか微妙な状況ではある。なにせ、これは会社への嫌がらせの結果なのだから。
寿司は大皿で来ているので、人気ネタの争奪戦が勃発していた。
「おい、お前、ウニを2個食べただろ」
「だって、計算したら、余りますし」
こんなことで争うなんて、平和だと思う。
「なんか、わたしたち、得してるよね?」
加納淳子が茶化して、みんなの笑い声が漏れる。
「まあ、誰が損したって、寿司屋だろうな」
確かにそうだ。
「でもさ、無駄にするよりは半額でも回収できたのだから、よかったのかもしれない」
「普通だったら、払わないだろうね」
「そうでしょうね」
そうこうしている間に、少しずつ、食べ終わって部屋を出て行く人が出始めた。
時計を見ると、もうすぐ13時になろうとしている。
すると突然、開けっ放しになっていた入り口から社員のひとりが飛び込んできた。
「大変です!」
みんなの注目が集まる。
「どうしたんだ?」
「今度はピザが……」
息を切らしながら、大声を上げている。
「ウソでしょ」
みんなが慌てて、廊下に飛び出した。
異なるピザ屋のスタッフが2人、大きなバックを抱えたまま、困惑した表情で立ち尽くしている。
エレベーターが開くと、今度はもう1人、また違うピザの配達スタッフが現れた。
なにも知らずにこちらに向かってくる。
インスペクションの社員が申し訳なさそうに、
「いまから警察を呼びますので、ご協力ください」と言った。
(続く)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:MEGA WEB
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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