【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#12

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​2nd ミキ、悩める乙女に!?
#12 ​加納とランチ​

昼休み、わたしは加納淳子とランチをするために歩いていた。少しずつだけど、暖かくなってきた気がする。
​「早く春が来るといいね」
「お花見しましょうね」
会社からはちょっと歩いたけど、落ち着いて話せそうなカフェのドアを開けた。ネットで調べて選んでおいた店だ。
思った通り、あまり混んでいないし、会社の人は誰もいない。
安心して、窓際の席に腰をおろす。
わたしはスープカレーのセットを、加納はパスタのセットを選んだ。
「昨日は大変でしたね」
加納がうんざりした表情を浮かべた。
「ホントに、嫌になっちゃうよね」
特上寿司が50人前届いたあと、ピザが30枚届いたのだ。
またなにが起きるかわからない。
「加納先輩、これは絶対内緒の相談なんですけど」
「どうしたの?」
「実は、会社内に、うちの情報を持ち出している人がいるかもしれないんです」
加納の目つきが変わった。
「社長からの指令で、わたしが探すことになりました」
加納は黙って、わたしの話に耳を傾けている。
「先輩、社歴も長いし、いろいろ知っていることが多いと思います。ぜひ協力してほしいんです」
加納はわたしの目をじっと見つめて、コックリと頷いた。
「手伝ってくれるんですか?」
「当たり前でしょ。そんな人、許せないもの」
随分と乗り気だ。桜川とはまるで対応が違う。
「嬉しいです」
「で、わたしは何をすればいいの?」
「とりあえず、わたしのほうで、怪しい社員をリストアップしたので……」
「オッケー。そのリストをもとに、また打ち合わせしようか。うちの会社に限って、そんなことをする人なんていないと信じたいけどね。でも、疑うのもわたしたちの仕事だもんね」
かなり頼もしい。調査の部署にいないから、こういうことが新鮮だということもあるのだろう。
「ちなみにさ、退職する予定の人は怪しいかもね」
「え、いるんですか?」
「うん。もちろん、口外しちゃいけない情報だけど。だから、会社に戻って、社長に確認してから、誰なのか伝えるね」
わたしはそれを聞いて、ますます嬉しくなった。
「はい、ありがとうございます」
なんだか、スパイを見つけられそうな気がしてきた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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