【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#13

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​2nd ミキ、悩める乙女に!?
#13 ​ヨタハチに会いに

わたしは母のアルファロメオ ジュリエッタで、横浜市内にあるカーショップに向かっていた。
​旧車をメインに扱う自動車販売&レストアショップで、車種も豊富なのでクルマ好きには有名な店だ。
結局、ヨタハチはエンジンをまるまる取り替えることになった。部品を取り寄せ中なので、家に戻ってくるまでには、まだ時間がかかりそうだ。
生産がはるか昔に終了した年代物の車に乗っているのだから、こういうことが起きるのも仕方がない。
店の駐車場に車を入れて、なにか違和感を覚えた。しばらく考えて、理由に思い当たる。ジュリエッタがまわりの車から浮いているのだ。
旧車好きが集まるこの店の駐車場には、当然、客たちが乗ってきた旧車が多く停められている。いつもはヨタハチで乗り付けるから溶け込んでいたけど、いわゆる「第三世代」のジュリエッタは、やはり最近の車のフォルムなのだ。
そんなことを考えながら立っていたら、スタッフがニヤニヤしながら近づいてきた。
「ミキちゃん、今日はどうしたんだい? ヨハタチはまだお持ち帰りできないよ」
「それはわかっていますけど」
今度は、その後ろから、オーナーの水野が少し驚いた様子で顔を出す。
「ミキちゃん、伝えてあると思うけど、まだ修理中だよ」
「はい、でも、ちょっとヨタハチに会いたくなって」
2人から笑顔がこぼれた。
「その気持ちは、よくわかるな」
わたしは促されて、事務所に入った。ソファに座ると、いつも通りコーヒーを入れてくれる。
礼を言うと、水野が優しく微笑んだ。
「だいぶ、気持ちの整理ができてきたのかな」
そう言って、煙草に火を点けた。
「あの日は、取り乱してしまってごめんなさい」
「いいんだよ、そんなこと」
水野が目を細める。
「お母さんとは?」
それは、わたしが聞こうとしていたことだった。
「あの、実は、母が急に海外旅行に行ってしまって」
「え、いつからだい?」
「あの日なんです。あの日、帰ったら、置手紙があって」
「ちょうど、あの日に? そんなことって、あるのか……」
水野が下を向いてしまった。
わたしは、試すような気持ちで聞いてみた。
「もしかしたら、水野さんが母に伝えてくれたのかなって思ったりもしたのですけど、そういうことはなさそうですね」
「俺がかい? まさか」
水野が顔の前で、腕を振った。
「そうですよね」
なんとなく、水野が嘘をついているのではないかと感じた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]