【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#14

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​3rd ミキ、仁、純のビミョウな関係。
#14 恵比寿のフレンチ

わたしは弁護士の河口仁とホワイトデーに食事をする約束をしていた。
​場所は、恵比寿にある高級フレンチ。ここに連れてきてもらうのは2回目だ。
少し落ち着かない。それは高級レストランに緊張しているからではなく、相談すべきかどうか、悩んでいることがあるからだ。
まずは、仁の息子である純とのこと。わたしは、彼に交際を申し込まれたわけだけど、そのことを知っているのだろうか。
自分にはもったいないような素晴らしい料理が運ばれてくる。どれも繊細な味付けだ。
「おじさま、純君とは、プライベートの話はしないの?」
仁はゆっくりと頷いた。
「ああ、もうあいつは家を出ているし、好きなようにやらせているからね。干渉はしないよ。早く身を固めるのもいいと思っているけどさ」
「そうですか」
その言葉で、確信した。純は父である仁に、わたしとのことは何も伝えていないのだ。
「もしかして、あいつと、なにかあったの?」
少し迷ったけど、首を振った。
「いえ、なんでもありません」
わたしは気が引けて、このことを話すのはやめることにした。
「ところで、お母さんは元気なのかい?」
もうひとつ、相談しようかと悩んでいたことは、家族のことだった。
でも、父と血がつながっていなかったなんて、こんなタイミングで告白するべきではないだろう。
「実は、母は急に海外旅行に行ってしまって」
仁が笑い出した。
「相変わらず、気ままだね。実に彼女らしい」
わたしも一緒に笑いたいところだけど、苦笑いだ。
食後のコーヒーが到着したところで、仁が渋い顔になった。
「本当はこんな話はしたくなかったんだけど、インスペクションはいまいろいろ大変なことになっているみたいだね」
それもわたしが相談したかったことだ。河口綜合法律事務所はインスペクションの顧問弁護事務所なのだから、仁にとっても決して他人事ではない。
「みんな不安になっています」
「早く警察が解決してくれるといいけどね」
今日、できたら聞いてみたかったこと。そのひとつに踏み込んでみることにした。
「おじさま、周藤さんがなぜ、刑事を辞めたのか、知っていますか」
仁の目つきが変わった。
「気になるかもしれないが、本人が言っていないのであれば、わたしの口から言うことではないかな」
わたしはゆっくりと頷いた。どうやら、わけありということだけは間違いないようだ。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]