【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#16

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

3rd ミキ、仁、純のビミョウな関係。
#16 純との朝

朝、6時半にセットしていた目覚まし時計が音を荒げる前に、自然と目が覚めた。隣では河口純が寝息を立てている。その寝顔に見入ってしまう。
​昨夜の記憶が蘇ってくる。
電話で、河口純の告白を受け入れた。すると、純はポルシェを飛ばして、うちにやってきたのだ。母が留守にしていたこともあり、そのまま泊まった。
純を起こさないように、そっとベッドから抜けて部屋を出る。
急いでシャワーを浴び、歯を磨いた後、キッチンに入る。朝ごはんを作ろうとしたけど、冷蔵庫にたいした食材がないことに気づいた。
母が旅行に出てから、コンビニでちょこちょこ必要なものを買っているだけで、スーパーには一度も買い物に行っていない。
ご飯を炊くと時間がかかるし、おかずを考えるのはけっこう大変だ。食べる野菜スープとか作ったら女子っぽくて、かわいいだろうか。とりあえずお湯を沸かそうか……。
まだ頭が働かない。腕を組んで悩んでいると、階段を降りる足音が聞こえてきた。
目をこすりながら純がやってきた。大きなあくびをしている。
「おはよう。水、もらえる?」
わたしは冷蔵庫からコントレックスを取り出して、グラスに注いだ。純に差し出すと、喉を鳴らしながら一気に飲み干した。
わたしが鍋を火にかけているのに気付いた様子だ。
「あ、俺、朝は食べないからいいよ」
その言葉にちょっと救われた。
「そうなの?」
白々しく聞き返してみた。
「うん。会社は何時から?」
「9時から」
「じゃあ、それに合わせて、行こうか」
「え、電車で行くからいいよ」
「いや、送らせてもらう」
結局、会社の近くまで、純に送ってもらうことになった。
助手席で化粧を整える。
ポルシェで会社に送ってもらうなんて、なんて贅沢なんだろう。まだ、この居心地には慣れない。
「あ、ここでいいから。誰かに見られたら恥ずかしいし」
恥ずかしいというか、会社の顧問弁護士事務所の跡取り息子と交際することになったのだ。もし、会社の人に知られたら、なにを言われるかわからない。
ポルシェがゆっくりと路肩に停まった。
「そう、じゃあ、いってらっしゃい」
わたしはドアに手をかけた。
「うん、ありがとう。いってきます」
純と目が合って、思わず笑みがこぼれた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]