【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#17

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

3rd ミキ、仁、純のビミョウな関係。
#17 真由子に報告

わたしは、会社帰りの電車の中で、不思議な気分でスマートフォンの画面を見つめていた。
​最近本当にいろいろなことが立て続けに起きた。
結局、河口純と付き合うことになった。そのことを誰よりも早く報告したくて、純に電話で返事をした後、親友の成田真由子にLINEでメッセージを送った。
<弁護士先生と付き合うことにした!>
<そうなんだ、よかったね>
かなり、そっけない返事だった。スタンプもない。いつものやり取りとは明らかにトーンが違う。真由子はけっこうな額を課金して、かわいいLINEスタンプを数多く取りそろえているのに。
男性に対しても「LINEスタンプのセンスは重要」と言うほどなのだ。無料スタンプばかりを使っている男性をこき下ろしていたこともある。
真由子の対応に、首をかしげてしまう。
電話をかけてみたけど、留守電につながった。
そうこうしている間に、昨夜は純が自宅にやってくることになり、それどころではなくなってしまった。
その後も、何度かメッセージを送っているけど、つれない返事だ。
<ごめん、悪いけど、ちょっと仕事が忙しくなっちゃってさ……。落ち着いたら、こっちから連絡するね>
「真由子の方から連絡する」ということは、「それまでわたしの方から連絡しちゃダメ」ということだろうか。
真由子とは中学のころからずっと仲良くしてきた。つまらないことで疎遠になりかけたことは何度かあったけど、すぐに仲直りして復活してきた。
親友だと思っていた真由子の存在が急に遠ざかって行く気がした。
真由子には父の手紙のことも相談していた。深刻な相談を一度にたくさんしたことで、負担になってしまったのだろうか。
それとも、純との交際を妬まれていたりして……。
まさかと思いつつ、でも、高校生の頃から、純のことをかっこいいと言っていたことが何度もあることを思い出した。
2人を引き合わせたことがあるから、面識はある。
もしかして、過去になにかあったとか……。
でも、そういうことがあったなら、どちらかから教えてくれてもよさそうだけど。
自宅に着くと、ベッドで横になり、スマートフォンを目の前に引き寄せた。
<わたしの親友の成田真由子って知っているよね? 今度、落ち着いたら、3人でご飯でも行かない?>
わたしは純にメッセージを送ろうとして、やっぱりやめた。波が立つようなことはしたくない。やっと訪れた幸せなのだ。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]