【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#18

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

4th インスペクションの危機、再び。
#18 サイバー攻撃

インスペクションへの悪質な嫌がらせについて、警察の捜査が続いていた。まだ、犯人につながる手がかりもなにも掴めていないらしい。
​​そんな中、今度は会社のサイトが書き換えられる事件が起きた。
<悪徳ブラック調査会社インスペクションから、個人情報が駄々漏れの件!>
昨夜のうちに、トップページはこう書き換えられていたという。
インスペクションは分業制で、調査を担当する部署と、報告書を作成する部署に分かれている。業務は効率的になり、以降、会社の業績は大きく伸びた。ただ、情報管理が複雑で難しいのも事実だ。
調査対象者の氏名や住所、車のナンバーなどは極力ふせてあるが、社員なら、誰もが共有データベースにある過去事例にアクセスすることができる。
今回のサイバー攻撃で、サイトの書き換えだけでなく、本当に個人情報が漏れたのか。本当なら、どんな情報が漏れたのか。
すぐにサイト自体を閉鎖したので、わたしは見ていないけど、特定の社員への誹謗中傷もあったそうだ。
わたしも会議室に呼び出されて、警察官2人に話を聞かれることになった。
「忙しいところ、申し訳ありませんね」
「いいえ、早く犯人が捕まるように、なんでも協力します」
わたしが前のめりになると、「それは心強い」と警察官が笑顔を見せた。
「ところで、捜査は難航しているのでしょうか? 犯人の手がかりは?」
2人が顔を見合わせた。
「なにせ、嫌がらせの段階なので、こっちとしてもそこまで人員を避けないのが実情です。犯人側もそれを知っていて姑息な真似をしているのかもしれませんね」
それは今までの調査から、なんとなく想像がついた。
「ただ、犯人は、あなたに恨みを持った人物かもしれません」
「わ、わたし、ですか?」
カラスの死骸は、茨城県内のコンビニから発送されていた。
調査で茨城を訪れたことはない。しかし、地域を限定しなければ、わたしに恨みがある人物と聞いて、すぐに思い浮かんだ人が何人かいる。社歴の浅いわたしが関わった案件は限られているのだ。
千葉の柏市でセルシオの盗難事件が起きた際に調査した関係者家族。神奈川県の厚木市で保険金の不正受給を行っていた銀行員の女性と、彼女がお金を貢いでいたホスト……。
シェアカーに傷をつけた犯人を調査した案件では、わたしが男たちに拉致されるという事態に発展した。相手は反社会組織。裏で周藤が手をまわして説得したようだ。それもあって、結局、警察には届け出ていなかった。もしあの男たちが嫌がらせの犯人だったとしたら……。
「なぜ、犯人はわたしに恨みがあると思ったのですか?」
警察官のひとりが、「こんな書き込みが」と、書き換えられたサイトを印刷したものを見せてきた。
<チビで気だけ強い女の調査員には要注意>
背の低い女の調査員はわたししかいない。怒りが込み上げてきた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]