【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#21

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

4th インスペクションの危機、再び。
#21 カーシェア事件

わたしは河口純の運転するポルシェ911カレラで、茨城県つくば市にある電子部品の検査工場に向かっていた。
​以前、カーシェアリング会社の所有するマツダ・デミオの案件を担当した。デミオに傷をつけた犯人は、河口綜合法律事務所に相談してきた母親の息子で、田中という男だった。ベンツに擦って、それを隠ぺいするため自ら塗装して返却して、しらばっくれたのだ。
ベンツの所有者である反社会組織の人間が血眼になって犯人を探し、調査員であるわたしも拉致されて脅迫された。
もちろん、彼らに田中のことは明かしていない。わたしは周藤のおかげで難を逃れたけど、いまだに、その時の恐怖が蘇ることがある。
その後、田中がどうなったのか心配ではあった。
河口綜合法律事務所を通じて母親に確認すると、突然、家を出て住み込みで働いているという。それでピンときた。きっと裏で何かあったに違いない。
ひとりで会いに行こうとしたけど、純が付き添ってくれることになった。
「ここだな、きっと」
2人で、工場に踏み込んだ。
作業中の田中を見つけた。わたしたちを見て、激しく動揺している。そして、走って逃げ出した。
「おい、待てよ!」
田中を追いかける。すぐに純が追いついた。追い詰められた田中は多少暴れたけど、他の工場スタッフもやってきて、羽交い絞めにされた。
「わかった。わかりました。もう逃げませんから!」
警察が来るまでの間、観念した田中と話し合うことになった。
田中の顔には、何者かに痛めつけられた跡がくっきりと残っていた。
「その顔、もしかして……」
田中がわたしを睨み付ける。
「そうだよ。あんたらのせいで、あいつらに、ボコボコにやられたよ。しかも、これからあいつらのために借金を返し続けなきゃならねえ。自己破産しても消えねえ!」
恐れていた最悪の事態が起こったのだ。
「ひどい……。なぜ、警察に言わなかったの?」
田中は色をなして反論し始めた。
「そんなこと、言えるかよ。常識が通用する相手じゃない。また十倍返しにあう」
それはその通りかもしれない。わたし自身、周藤に救けてもらえなかったら、どうなっていたかわからないのだ。
「あんたらが余計なことしたからだ」
田中が再びわたしを睨みつけた。
「でも、そもそもあなたが傷跡を隠ぺいしたのがいけなかったよ。わたしだって、あなたのせいで拉致されたんだから」
「うるさい、チビで女の癖に余計なことしやがって」
わたしは怒りで震えていた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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