【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#22

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

4th インスペクションの危機、再び。
#22 嫌がらせの犯人

インスペクションに悪質な嫌がらせをしてきた犯人は、以前、わたしがカーシェア事件の調査で関わった田中という男だった。
わたしと純が追及すると素直に犯行は認めたが、わたしへの恨みは消えていないようだった。
ベンツを所有する反社会組織に多額の賠償を請求され、工場に送り込まれたのは気の毒だ。でも、それは、わたしのせいではない。
「あなたのお母さんが弁護士事務所に相談しなければ、わたしたちが介入することもなかったのに……」
「うるせーよ! そんなこと、俺だって、わかってるんだよ!」
田中の顔が歪んでいく。少し居たたまれない気持ちになる。
「依頼人のために、全力を尽くして調査する。それがわたしの仕事なの」
「さっきから、自分たちの正当性ばっかり主張しやがって。お前らが個人情報を流さなければこんな​ことにならなかったんだよ」
どういうことだろう。田中が言っていることの意味がよくわからない。
「待って。わたしたちが、あなたが犯人だということを奴らに伝えたと思ってるの?」
「そうだよ。だからいまここで働いているんじゃないか」
「わたしたちは、絶対にあなたのことはあの反社会グループに伝えていない」
「だから、嘘をつくなって」
「嘘じゃないわ!」
わたしは言ってから、自分が大きな勘違いをしているかもしれないことに気づいた。もし、会社内のスパイが、あの反社会組織に情報を売っていたとしたら……。
まもなく、警察が到着した。その後の取調べで、田中はインスペクションに対して行った嫌がらせについて、大筋で認めているようだ。
「きっと業務妨害罪が適用されるだろうな」と純は言った。
わたしは彼が気の毒になって「彼の弁護をしてあげられないの?」と純に聞いてみた。でも、インスペクションの顧問弁護をしている河口綜合法律事務所では、利益相反が生じる恐れがあるため、弁護を担当できないということだった。別の弁護士がついたようだけど、聞くところ、田中は真相を明かしていない。
田中は、反社会組織のことを絶対に口外しないでくれと懇願してきた。
わたしは当初、スパイが田中とつながっているのかもしれないと思っていた。でも、違う。スパイとつながっていたのは反社会組織だったのだ。
反社会組織は、インスペクションの中のスパイから田中の情報を引き出し、ベンツを擦った責任を取らせようと酷な条件を出した。
その結果、田中は怒りの矛先を、わたしと、インスペクションに向けた。
スパイは、田中が警察にすべてを話さないことを、自分が罪に問われないことをわかっている。
スパイの目星はついている。わたしの心の中では、その疑いを強める思いと、どうか間違いであってほしいという思いがせめぎあっていた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]

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