【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#23

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

5th ミキ、周藤を尾行する!?​
#23 謎の少女

わたしは、ついに、周藤を尾行することにした。
​最近は別行動を取っていることが多い。周藤がいつもの調子でフロアを出て行く。一呼吸置いて、彼の背中を追いかけた。
相手はプロだ。気が抜けない。タクシーで間隔を開けて、マークXを追う。
やがて、車は児童養護施設に到着した。
建物から周藤と女の子が出てきて、施設の中庭にあるベンチに腰を掛けた。なにやら話し込んでいる。
すると、周藤が立ち上がり、ひとりでどこかへ歩き始めた。周藤を追うべきか、女の子を見張るべきか、わたしは迷った。
女の子はベンチに座ったままだ。
「そこで、なにやってるの?」
わたしは思わず飛び上がってしまった。
背中からかけられた無邪気な大声。どうか、わたしに向けた言葉ではありませんようにと願って、恐る恐る後ろを振り向く。
男の子が立っていた。
「わたし、怪しい人じゃないのよ」
わたしは必死に言う。だが、ベンチに座る女の子に聞かれたくないために、不自然な小声になっていた。
「いや、めっちゃ怪しいよ!」
言われなくてもわかっている。
「あのね、お姉さんはね、あの子の知り合いなの」
咄嗟に噓をついたけど、それが間違った選択だということに言った瞬間に気づく。
「ユリナの?」
とりあえず、曖昧に頷いてみた。
「う、うん、そうなの。向こうはもう覚えていないかもしれないけど……」
男の子が突然、女の子に向かって大声をはりあげた。
「おい、ユリナ、この人知ってる?」
そして、わたしの手を引いて歩き始めた。
ユリナという名の女の子は、遠くからじっとわたしのことを見つめている。
その刺すような目がどんどん近付いてくる。
血の気が引いていく。わたしは動揺を隠せなかった。
「こ、こんにちは」
自分でも表情がひきつっているのがわかる。
「この女の人、知ってる?」
知っているわけがないだろう。これはまずいことになった。
「あ、たぶん、忘れられちゃったと思うな」
でも、彼女は何かを企むような笑みを浮かべて頷いた。
「うん、よく知ってるよ」
ユリナが発した言葉に、空いた口が塞がらない。
「あ、なんだ、本当に知り合いなのかよ。なら別にいいけどさ、なんか怪しい人かと思って心配したぜ」
ユリナはじっとこちらを見つめている。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]