【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#24

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

5th ミキ、周藤を尾行する!?​
#24 ユリナ

周藤を尾行して、養護施設の敷地に迷い込んだところ、男の子に見つかった。
​「なんだよ、ユリナに会いに来たのか。じゃあ、俺は行くわ。寒いしさ」
「うん。心配させてごめんね」
男の子は気を遣ってくれたのか、施設の中に消えた。
わたしはユリナの隣に腰をおろした。
「ところで、おばさん、なにしに来たの?」
わたしは面食らった。
「え、どっからどう見てもお姉さんじゃない?」
「その返しがおばさんなの」
苦笑いするしかない。
ユリナがそらんじ始めた。
「上山ミキ、28歳、独身。保険調査員見習い……」
その言葉にギョッとする。なんでわたしのことを知っているのだろう?
「わたし、もっと早く会いに来るかと思っていた」
ユリナに見つめられて、寒気がした。
「どういうこと?」
ユリナは悪戯っぽく笑った。
「どうせ、あの人を追いかけてきたんでしょ」
そうか、周藤がわたしの話をしていたのだ。
「おばさん、さっき、尾行の途中で子供に見つかっていたよね。そんなことで、仕事大丈夫なの?」
顔から火が出そうだ。
「まあでも、最初はできない部下を持ったって嘆いていたけど、最近は随分とマシになったらしいね」
そんなことまで話しているのか……。
「ねえ、おばさん、あの人のこと狙ってるんでしょ。高そうなバレンタインチョコをあげたの、知ってるよ。美味しかった」
うわ、腹立たしい。
「いや、狙ってないよ。わたしはただの部下だもん。お世話になっているから、お礼で義理チョコをあげたの」
わたしは必死に説明する。
「本当に義理チョコかな」
ユリナが小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「お姉さん、大人だからね、義理チョコにもこだわるんだよ。それに、わたし彼氏いるもん」
しつこく「お姉さん」と言い直しながら話すと、ユリナが驚いた表情を見せた。
「え、冗談でしょ?」
「本当だよ」
「うそ、意外」
「ちょっと……失礼な子だな、まったく」
彼女がわたしの後ろに目線を移した。振り向くと、そこに周藤がいた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]