【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#25

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

5th ミキ、周藤を尾行する!?​
#25 尾行失敗!?

周藤を尾行したわたしは児童養護施設にたどり着いた。だけど、不覚にも子供たちに見つかってしまい、さらに周藤にも尾行がバレてしまった。
状況は最悪だ。
周藤に促されて、マークXに乗り込む。車に向かう間も、ユリナはニヤニヤしながらずっとこちらを眺めていた。
わたしは歩きながら、周藤がバツイチだという噂は本当だったのか……と考えていた。しかも、子供がいたのか。
「まだまだ尾行が下手すぎるな。嫌がらせ犯を捕まえたことだし、腕をあげたかと思ったんだが」
周藤が嘲笑うように言ってから、タバコに火を点けた。
「すみません」
だが、怒っている様子はない。
「かわいいお子さんですね」
周藤が照れたように、タバコの煙と一緒に言葉を吐き出す。
「無茶ばっかり言うし、子供のくせに素直じゃないけどな」
「施設に預けているのですね。立ち入った質問ですが、奥さまは……?」
周藤の表情が困惑したものに変わった。
「勘違いするな」
「え、どういうことですか?」
「あの子は、俺の子供じゃない」
恥ずかしくて、顔に血が昇っていく。
「そうなんですね。早とちりしてすみません」
「会いに来る約束をしてるんだよ」
周藤も恥ずかしそうにタバコを咥えた。
「それじゃあ、あの子に会うために、ここに通っていたのですね。よくひとりでどこかに出かけていたのは、そういうことだったんですか」
周藤が頷く。
「周藤さんについて、社内で悪い噂が流れているのはご存じですよね? それは構わないんですか?」
「そんなことはどうでもいい。もともと、あの会社に長居するつもりはないからな」
突き放すような一言だった。
「辞めたら、どうされるんですか?」
周藤がニヤリとした。
「まあ、その時はその時だな。探偵にでもなるか」
タバコの煙を大きく吐き出した。
「社長に1年は会社にいてくれと言われている。年俸制の契約だ。だから、その約束だけは守るつもりだ」
周藤がいつまでも会社にいるつもりじゃないということは予想していた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]