【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#26

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​5th ミキ、周藤を尾行する!?​
#26 周藤とユリナの関係

「それで、あの子に聞きたいことは聞けたのか」
​わたしは、かぶりを振った。
「いいえ、まったく……」
終始ユリナのペースで会話をしていて、肝心なことはなにも聞けていなかった。
「ユリナちゃんのこと、なぜわたしにも隠していたんですか?」
「別に隠していたわけじゃない。ただ聞かれなかっただけだ」
確かに、わたしは周藤のプライベートの領域には踏み込まなかった。
「自分から言う話ではないからな」
「あの子とはどういう関係なんですか?」
少し間が空いた。
「あいつの親はもうこの世にいない」
次の言葉を待った。
だが、周藤はタバコを吸っているだけで、続きを話そうとはしない。
「なにがあったんですか? 聞ける範囲で教えてください」
周藤が重々しく口を開く。
「ある事件の容疑者だったんだ。俺が追い詰めて、死んでしまった。結果的に、俺が殺したようなもんだ……」
そんなことがあったのか。
「それで、警察を辞めたんですか。容疑者を追いかけるのは警察として、当然のことだと思いますけど……」
周藤は遠くを見ている。
「当然のことが、嫌になったんだから、辞めるしかないだろ」
周藤がタバコを吸い終わって、大きくため息をついた。
「社長はもちろん、このことを」
「知ってるよ。当たり前だろ。社長には全部話しているさ」
周藤が、わたしを出来の悪い子供を諭すような目で見つめてきた。
「ところで、お前はこんなことをしている場合か?」
わたしは不意を突かれた。
「確かに、お前はインスペクションに嫌がらせをした犯人を突き止めた。まさか、そっちを捕まえるとは思わなかったよ。俺は社外の敵を見つけろなんて、言ったつもりはないけどな」
「出すぎたまねをしました」
わたしは得意な顔をして見せた。だが、周藤はわたしと目を合わせようとしない。
「で、スパイの調査の方はどうなんだ」
「そっちの方も、もうだいたい目星はついています」
周藤がニヤリと笑った。
「随分と自信があるようだな」
わたしはゆっくりと頷いた。
「わたし、もしかしたら、いまノリに乗っているのかもしれません」
周藤が表情を緩めた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]