【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#28

第4話「スパイ事件を調査せよ!」

​6th ミキの決断。​
#28 桜川とカフェで

わたしは、同期入社の桜川とカフェにいた。
​コーヒーがやってきた。店員が遠ざかってから、話を切り出す。
「会社、やめるんだってね?」
まだ社内でオープンにされていない情報だったけど、加納淳子から聞いていた。
桜川は、こちらを見もしない。
「さすが、警察よりも先に難事件を解決した敏腕調査員だけあるな。情報を仕入れるのが早い」
小ばかにした口調だった。
「ねえ、なんで、やめるの?」
桜川はゆっくりとコーヒーをすすったあと、ボソッと口を開いた。
「単純に、条件がいい会社に転職するためだよ」
「入社以来、ずっと頼りにしてきたのに」
桜川はうんざりした表情を見せた。
「俺は、ミキちゃんのために働いているわけじゃないからさ」
ごもっともだ。
「わたし、いろいろ相談してばっかりだったね。桜川さんの相談はなにも聞けなかった」
桜川が息を吐き出した。
「そんなの気にする必要ないよ」
言葉を続ける。
「俺さ、契約社員からのスタートだったんだよ。ミキちゃんとは違ってさ」
加納淳子に聞くまで、わたしはそのことを知らなかった。もしかしたら、いままでになにか無神経な発言をしたかもしれない。
「そうだったんだね、全然知らなかった……」
桜川はわたしと目を合わせるつもりがないようだ。
「ずっと、ミキちゃんが羨ましかったよ」
意外な言葉だった。
「え、なにが?」
そこでやっと、桜川は目線をこちらに向けた。
「コネで入って、いきなり正社員になったことが。あと、よくわからない行動している周藤さんとかさ……」
反論の言葉は見つからなかった。わたしは即戦力でもないのに、正社員として採用されていたのだ。
「見ていてイライラしたし、相談されて、なんとも言えない気分だった」
「そんな……」
桜川の表情がどんどん歪んでいく。
「この会社に入って、結婚を考えていた彼女にも振られたしさ、最悪だよ。なにひとついいことがなかった」

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:丸田章智さん

編集:ノオト

[ガズー編集部]