【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第4話#31
第4話「スパイ事件を調査せよ!」
6th ミキの決断。
#31 周藤とランチ
わたしは正式に、会社から長期休暇をもらうことになった。
周藤に報告するとランチに誘われた。わたしは、桜川との会話を報告した。
「周藤さん、わたしに調査させれば、桜川さんと接触すると最初から踏んでいたんですね」
だから、桜川は焦り始めて、すぐに退職を決意することになったのだ。
「少しは頭が働くようになったみたいだな」
どうやら、周藤は最初から桜川のことを疑っていたようだ。
「ところで、会社にはいつ戻ってくるんだ?」
わたしは、「わかりません」と答える。もしかしたら、いや、きっと、戻らないのかもしれない。
「自分探しの旅にでも出るのか?」
「いえ、父の失踪の真相を探るためです」
「なるほど、前に話していたやつか。弁護士の彼は手伝ってくれるのか?」
「……ふられました」
周藤がふきだして、そのまま、なかなか笑いが止まらない。じっと見ているとやっとおさまった。
「じゃあ、その調査で助けが必要になったら、俺に連絡しろ」
「意外と優しいですね」
ランチが終わって、わたしは、周藤と別れて駅に向かった。途中で小道に入ってから、ビルの陰に隠れる。
突然わたしが消えたものだから、つけてきた男は右往左往して滑稽だった。
わたしは姿を現す。
「あの、さっきから、なぜわたしをつけているんですか?」
いきなりわたしが飛び出したものだから、さらに狼狽している。
「こ、これは大変失礼しました」
男はすぐに、開き直ったように落ち着きを見せた。
「あなたが、噂の上山さんですか。聞いていたとおりの人だな」
「そうですけど、あなたは?」
男は「同業者です」と前置きして、名刺を差し出してきた。
「まさか、SRの方ですか?」
「はい、SRで人事をやっている、能代というものです」
わたしはその名刺を受け取って、まじまじと見つめた。この業界では、唯一全国展開している最大手の保険調査会社。規模もノウハウも、インスペクションよりずっと上だ。
「なぜ、わたしのことを知っているのですか」
「もともと噂は聞いていました。とても調査員に適性のある方だと。うちは優秀な方をいつも探していますし、一方で最近は御社の社員でうちへの転職を希望している方がいたので、少し様子を見させてもらっていたのです。しかしまさか、あの嫌がらせ事件を警察よりも早くあなたが解決するとは……」
なるほど、それで社員の白石に目撃されたのか。腑に落ちた。
「どうですか、もしうちに来るならいつでも大歓迎ですが」
なんていうタイミングだろう。まるで、わたしと社長の会話を盗聴でもしていたみたいだ。
「いいえ、わたしはインスペクションが好きなんです」
それに、もう長期休暇に入るところなのだ。
「そうですか。まあ、また会うこともあるでしょう。それでは、失礼します」
能代がそそくさと去っていく。
わたしには、なによりやらなければならない調査があるのだ。
〈第4話・完〉
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:丸田章智さん
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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