【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#02

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

1st ミキ、父の消息を追う。​​
#02 あらゆる可能性

わたしは、父が10年前に海外で突然失踪した謎に思いをめぐらせていた。
​考えうるあらゆる可能性を考え、つぶしていかなければならない。そのために、保険調査という仕事で多くのことを学んだのだ。
例えば、父が保険金を家族に残すために自殺、あるいは失踪したというパターン。考えたくないけど、選択肢から排除することはできない。
父の場合、仮に自殺だったとしても保険金がおりた可能性は十分にある。
保険金が支払われるには、保険の免責期間を過ぎていなければならない。
免責期間を過ぎていても、告知義務違反があった場合には保険金は支払われない。例えば、病院でうつ病の診断を受けていたにもかかわらず虚偽の申請をして生命保険に入った場合などだ。
また、違法な薬物に手を染めていたなど、犯罪行為に該当していた場合も保険金が支払われない。
父は確か、一億円には満たなかったけど、ある程度の額の生命保険に入っていた。母と結婚した時に入って、その後、額を増やしていったはずだ。ずっと前に免責期間は過ぎていた。
ただ、家族も父も、お金に困っていたという事実はなかった。父の仕事は独立後も順調だったのだ。
一方で、フィリピンでは毎年のように、日本人の殺人事件が起きている。
日本人が仕組んだ保険金殺人事件が発生したことも一度や二度ではない。まず日本国内で、ある人物に多額の保険金をかけて、フィリピンに連れて行き殺害する。そういう事件がこれまで現実に起きているのだ。
フィリピンは物価や人件費が安い。拳銃も手に入りやすく、警察の捜査が日本よりもはるかにゆるいそうだ。
しかし、父にかけられた保険金は、自分自身で家族のためにかけたものだ。実際、わたしたち家族が受け取った。
だから、保険金目的の殺人はありえない。母が犯人でなければ、だが。
何度考えてみても、父が自ら失踪したケースが頭をよぎる。失踪後、一年経って死亡認定されれば保険金はおりる。実際におりた。でも、保険のプロフェッショナルだった人間が、そんなモラルに反したことをするだろうか。
父は優秀な保険マンだった。大手の保険会社に入って、すぐにトップ営業マンになった。やがて、独立することになったのは、母やわたしたちのためだったという。会社に残っていれば、地方をまわることになるからだ。
やはり、警察の見解通り、シーカヤックに乗っている最中に、事故が起きたと考えるのが妥当なのだろうか。
とにかく、マニラに行かなければ……。なんだか、父が呼んでいる気がするのだ。
ただ、何の手がかりもないままに行っても意味が無い。
疎遠になってしまった河口仁と純のことを思う。こんなときこそいろいろ相談したいのに……。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]