【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#06
第5話「父の失踪事件を調査せよ!」
1st ミキ、父の消息を追う。
#06 水野の贖罪
わたしが水野を追及すると、知っていることを話してくれた。もう吹っ切れた様子だ。
「俺もそういうの気になるたちだからさ、そのことならずっと考えてきたよ。フィリピンに行こうかと思ったことすらある。でもね、結局、真相はわからないままなんだ」
「そうですよね……」
重たい空気が事務所を包み込んだ。
「それにしても、ずっと黙っていたことがあったのは間違いない。大切なお得意様のミキちゃんに申し訳がたたないよ」
水野が本当に恐縮して、頭を抱えていた。
「じゃあ、ひとつだけお願いを聞いてください」
「なんだい?」
「ヨタハチの代用車を1台、1週間でいいので貸してくれませんか。母がジュリエッタに乗って、今度は軽井沢に逃げていってしまったんです。わたし、追いかけなくちゃ」
水野が何かを悟ったように笑みを浮かべた。
「わかったよ。俺の2000GTを持っていきな」
わたしは飛び上がりそうになった。
「え、だって、水野さんが命よりも大切にしてるものだって……」
大げさではない。水野にとって2000GTはかけがえのない宝物なのだ。助手席に乗せてもらったことだけはある。確か、運転は誰にもさせていないはずだ。
「そんな、もったいないです。もしなにかあっても、困りますし」
「いや、なにかあったら、そのときはそのときだ。今回だけは、特別だからね」
そういうことなら、水野の好意をありがたく受け取ろう。2000GTで旅をするチャンスなんてそうそうあることじゃない。これもきっと運命なのだ。
「あ、ミキちゃん、それともうひとつ。あくまでも未確認情報なんだけど」
「なんですか?」
「実は、フィリピンで彼のことを見たって人がいるんだ……」
「そんな! 誰が?」
信じられない情報を聞いて、わたしは思わず声を上げていた。水野が慌ててとりなす。
「もちろん、99%、人違いだと思うよ。世の中には似た人が5人はいるっていうからさ。上山さん、ヨタハチのオーナーズサークルに入っていただろ。その仲間の1人が、うちの客で、フィリピン旅行に行ったときに、似た人を見たって言うんだ」
水野が渋い表情を作る。タバコを取り出した。
「それはいつですか?」
「上山さんがフィリピンに行ってから2年後のことだ。もうさ、奥さんからも忘れたいって話を聞いていたし、保険金が降りたってことも聞いていた。だからさ、警察にも言っていない。そいつにも絶対に言うなって釘を刺したよ」
「わたし、その人に会いたいです」
「そうだよな、これを聞いたらそうなるよな……。よし、わかった。電話してみる」
水野がタバコを咥えたまま、携帯電話を持って立ち上がった。
「そうなんだ……。その娘さんがさ……。頼むよ……」
早速、本人に電話をしてくれているようだ。遠くで話している声が漏れ聞こえてくる。
<続く>
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:MEGA WEB
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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