【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#07

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

​1st ミキ、父の消息を追う。​​
#07 2000GT

もしかしたら、父は生きているのかもしれない……。
​旧車ショップのオーナー、水野の知人が、フィリピン旅行でわたしの父らしき人を見かけたのだという。それを聞いて、嬉しい反面、急に不安がこみあげてきた。
わたしたち残された家族は、保険金がおりたことで、なに不自由なく生活することができた。でも、もし父が生きていたとしたらどうなるのだろう。
「ミキちゃん、顔色悪いけど、どうしたの?」
電話から戻ってきた水野が心配そうに聞いてきた。
「あ、いえ、なんでもないです」
父の失踪の真相に迫る。それは、いったんは落ち着いているいまの状況を壊すことになるかもしれないのだ。それが、父の消息を知りたいという気持ちにブレーキをかける。
「その男もさ、もう記憶もすっかり薄れているって言っているけど、話ならいくらでもするって言ってくれてさ」
「どうもありがとうございます」
水野が、その男の情報をメモ用紙に走り書きして、わたしに手渡してくれた。
「え、うそ!」
それを見て、わたしは声を上げていた。
「なにが、うそって?」
そこに書かれていたのは、三鷹にある板金工場の寺田のことだった。
「わたし、この方に会ったことあります」
カーシェア事件の調査で協力してもらったのは、まだ数カ月前の話だ。
「そうだったのかい。不思議な縁だな」
「本当に。こんなことってあるんですね」
「じゃあ、とりあえず、車まで案内しようか」
水野が2000GTのカギを取り出して、わたしに手渡してきた。受け取ると、ずしりと重く感じた。
一緒に駐車場に行くと、クリーム色の2000GTが姿を現した。今まで何度も見てきたけれど、まさか自分が運転する日がくるなんて……。
水野に、「本当にいいのですか」と念押しすると、「男に二言はない」と返ってきた。
「ありがとうございます。なんか、ボンドガールになったみたい」
2000GTは、1967年に公開された「007は二度死ぬ」に登場した伝説のボンドカーなのだ。トヨタがヤマハと協力して作り上げた日本初の本格的なグランツーリスモで、生産台数は、たったの337台。その希少性と人気から、昨年行われたオークションに著名なカーコレクターが出品した一台は、なんと1億円を超える価格で落札された。
水野が見守る中、わたしは運転席に入った。エンジンをかける。ハンドルを握る手が少し震える。
わたしは水野に手を振って、三鷹の板金工場に向かって出発した。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]