【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#08

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

​2nd ミキ、2000GTで走る。​​
#08 寺田と再会

わたしは三鷹の板金工場に向かって2000GTを走らせていた。ヨタハチを運転するとき以上に周囲の視線を感じる。やがて、懐かしい景色が近付いてきた。
​​ カーシェアの事件について調べていたのは2~3カ月ほど前のことだ。
ヨタハチに数年前まで乗り続けていたというのを考えると、整備士の寺田は車が大好きな職人なのだろう。
2000GTで板金工場に乗り入れると、すぐにスタッフが集まってきた。
皆がスマートフォンで撮影を始める。
そのなかに、寺田の顔もあった。
「いや、驚いたね。あんたが上山さんの娘さんだったなんて」
「その節はお世話になりました。なんだか不思議なご縁ですね」
寺田が腕を組んで、白い歯を見せた。
「聞いたよ。普段は、ヨタハチに乗っているって?」
「はい、寺田さんは、もう乗り換えたそうですね」
寺田が苦笑いをする。
「10年以上乗ったんだけどな。俺もこう見えてさ、子供が2人いるからね。家族の猛反発をくらって、泣く泣く手放したよ」
ヨタハチは2人乗りだ。もう1台、ファミリーカーを導入するなんてことは、駐車場代の高い東京ではかなり難しい。
「いまは、なにに乗っているんですか?」
「あ、いまはね、ランクル」
そういいながら、寺田はずっと2000GTを見つめている。
「一週間だけ、水野さんから借りることになったんですよ」
「聞いたよ。俺にも何日か貸してくれって言ったんだけど。まったく、ずるいよ!」
車好きなら誰もが2000GTを運転したいと思うはずだ。
「なんだか、わたしだけ、特別みたいで……」
ちょっと申し訳ないな、と思いながら立っていると、寺田が運転席のドアに手をかけた。
「でも、1時間だけなら運転していいって言われたから、助手席乗って」
「え、でも……」
「水野さんに電話して確認してみなよ。俺はあんたの相談に乗るかわりに、2000GTを1時間運転する許可をもらったんだ」
「わ、わかりました」
寺田は子供みたいに無邪気な顔つきをしている。
「よし、出発進行!」
2000GTが走り出した。
「マジで、最高だな。最高だよ。こんなチャンスは二度とない……」
寺田は少し目がうるんでいるようにも見えた。車好きとして、その気持ちはよくわかる。わたしは寺田の運転を邪魔しないように、助手席でそっと息を潜めた。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]