【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#10

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

2nd ミキ、2000GTで走る。​​
#10 久しぶりの真由子

わたしは少し緊張しながら、親友の成田真由子の家に向かっていた。
​​ 真由子と最後に会ってから、もう一カ月が経っている。ずっと頻繁に会っていたから、こんなことはなかなかなかった。今日は久しぶりのドライブを約束しているのだ。
彼女はマンションから出てくるなり、2000GTをスマートフォンで激写している。わたしも狙われたので、ポーズをとって見せた。
いつもの笑い声が聞こえてきて、心が落ち着いてくる。
真由子がやっと、ドアを開けて助手席に乗り込んできた。
「さすが、時代を越える美しいデザインだね。かっこいい!」
「うん、特別な車なのだ」
「なんで? なんで、こんなすごい車を借りられたの?」
わたしは自然とニヤニヤしてしまった。こんな車のハンドルをにぎったら、誰もがそうなるだろう。
「オーナーにちょっと貸しを作ったからかな」
「ふーん、よっぽど大きな貸しだったんだね」
真由子がシートベルトをしたのを確認して、わたしは、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。これから、都心の皇居周辺に向かうのだ。
しばらく連絡を取っていなかったからか、2人を包む空気はどこかぎこちない。
すでに、河口純とあっけなく破局を迎えたことは伝えていた。
「わたし、一カ月ももたずに、またひとりになっちゃった」
自嘲気味に、でも、明るく声を上げた。
「いろいろと相談にのってあげられなくて、ごめん」
「そんなの、気にしないで」
真由子はため息を吐きだしてから話し始めた。
「高校のときにミキから紹介してもらって、わたし、河口純に一目惚れしたんだ。マジ過ぎて、あんたには相談できなかったけどね……」
え、そんなと、心の中で叫んでいた。そんなことは想像もしていなかった。
言葉を失う。
「大学生になった時に、何度かアプローチして、やっと相手にしてもらえるようになった。付き合えないって言われたのに、わたしはそれでもいいって言って、たまにデートしてもらってた」
言葉が出てこない。真由子の方に目も向けられなかった。
純からもそんな話は一切聞いてなかったのだ。
「社会人になっても、同じ感じだった。妬かせようといろいろやってもダメで……。そんなときに、向こうからやっぱり、こういう関係はやめようって、ふられたの」
「そうだったんだ……」
なんとか声を吐き出した。
「それでも、忘れられなくて、ずっと彼のことが好きだった。なんだか、ずっとミキには相談できなかったんだ」
「ごめん、何も知らなくて」
「言ってないから、当然だよね」
やがて、わたしの運転する2000GTは、桜田通りから、春の皇居周辺にさしかかった。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road