【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#15

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

3rd ミキ、軽井沢へ。
#15 ミキの本当の父親

しばらくたつと、母は少し落ち着きを取り戻した。
​「わかったわ」
母が意を決したように言葉を放った。
「なにがわかったの?」
「正直にぜんぶ言う」
わたしは母の目を見つめた。
よかった。これでやっと、前に進める。
「ありがとう。どんなことでも、ぜんぶ、受け入れる」
母が重々しく口を開いた。
「ミキは、あの人との子どもではないの」
わたしはあっけにとられた。
「いや、それは聞いたから、知っていますけど……」
わたしは少し笑ってしまった。母も少しだけ笑ったけど、すぐに困った顔になって、また大きく息を吐き出した。
「それは手紙にも書いてあったし、軽井沢で教えてくれたよ」
「そっか、そうだったよね……」
「誰なのかが知りたいの」
さっきは「正直に全部話す」と言ったものの、母はまだ、わたしの本当の父親について口に出すのをためらっているようだった。
「もしかして、わたしが知っている人?」
母は黙り込んだ。
「そうなんだね」
母の表情を見て、わたしも思わず、ため息を吐き出した。
「もしかして、先生って、呼ばれている人?」
母は目を伏せた。もし違っていたら、否定しているはずだ。
母とわたしの共通の知り合いで、「先生」と呼ばれている人物。教師ではない。弁護士だ。
河口仁。彼がもしもわたしの本当の父親だったとしたら。それは、考えたくないけど、考えざるをえないことだった。
やっぱり、そうだったのだ。だから、わたしはいままであんなにかわいがってもらえたのだ。そして、わたしと純が付き合うことになった途端、態度が豹変した。
「お父さんはいつそのことを知ったの?」
母は目をうるませていた。
「たぶん、失踪した、あの年だよね?」
母は否定も肯定もしない。
「ねえ、そうなんでしょ?」
母がやっと頷いた。
父と河口仁は親友のはずだった。親友が、自分の妻と関係を持つ。しかも、自分と血のつながった子どもだと思っていた娘は、親友との間にできた子どもだった。それは、父がどんなに心の広い人物だったとしても、2人の関係が壊れるのに十分な事実だろう。
河口仁と父との間に、なにかがあったのではないだろうか。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]