【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#16

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

​3rd ミキ、軽井沢へ。​​
#16 新たな疑問

母と会話を交わした後、わたしはなぜか逃げるように駆け足で部屋に戻って、思い切りベッドに飛び込んだ。
​ 枕に顔をうずめる。すぐに苦しくなって、鼻の位置をずらした。
ついに、真実を聞いてしまった。
自分が求めていたことだけど、聞きたくなかったとも思う。
わたしは、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。開けてはいけないと、まわりの人間からひた隠しにされていた事実を、自分で暴いてしまった。そして、出てきた現実は、あまりにも厳しいものだった。
子どもの頃からずっとそばにいて、育ての父がいなくなってからは親代わりに甘えたりもしていた弁護士の河口仁。
彼が、自分の本当の父親だったなんて……。
しかも彼は、わたしの父の親友だったのだ。
大きく息を吐き出してから、今度は仰向けになった。
わたしが河口仁と母との間にできた子どもだということは、2人が不倫をしていたということだろう。
子どものころを思い出す。
父がいなくなるまでのわたしたちは、普通の幸せな家族だと思っていた。
たまには言い合いをしていたけど、それは、よくある夫婦喧嘩だったと思う。
ずっと夫婦仲はよいものだと思っていたのに、本当は違ったのだろうか。
河口仁と母の関係はいつからいつまで続いていたのだろう。
父からの手紙には、この件に弟は関係ないと書かれていたが、本当なのだろうか。
もしかして、河口仁は父の失踪にかかわっているのではないだろうか。
父が2人の関係に気づいてしまったために邪魔になり、河口仁が父をフィリピンに誘い出して、現地のヒットマンを雇って殺害したとか……。
もし仮に、弁護士がそんなことをしていたとしたら、世も末だ。絶対に許すわけにはいかない。
いや、河口仁がそんなことをする人にはとても思えないし、父の失踪にかかわっていないとどうしても信じたい。
なぜ父はいなくなってしまったのだろう……。
頭が混乱している。真実が少し明らかになったはずなのに、それによって、また新たな疑問が次々と湧いてきたのだ。
こうなったら、河口仁から直接聞き出すしかないだろう。
でも、正面からアプローチして、すんなりすべてを告白するものだろうか。
なにかしらの作戦は考えた方がよさそうだ。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]