【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#17
第5話「父の失踪事件を調査せよ!」
4th ミキ、河口親子と対決!?
#17 純からの電話
目が覚めた。朝だ。
電気をつけたまま、服を着たままで寝てしまったことに気がつく。心がモヤモヤしているから、生活も乱れるのかもしれない。
2000GTを水野に返却する約束の日まで、まだあと2日あった。
あの車を車庫に眠らせておくなんて、車好きの人間として、絶対にもったいない。
わたしは、景色のよい場所で、思い切り車を飛ばしたくなった。
すぐに、湘南の海沿いの道が思い浮かぶ。あの車は絶対に海が似合う。海岸線を走るのはきっと爽快だ。
湘南は、父と一緒によくドライブした場所でもある。
今日は母を誘おうかとも思ったけど、やっぱりやめた。
まだ顔を合わせるのも気まずい状況だ。なにを話していいか、どんな顔で挨拶を交わせばいいかも、わからない。
支度をしてリビングに入ると、母はもう外出した様子だった。少し安堵する。
2000GTを車庫から出したところで、スマートフォンに着信があった。画面に表示された名前を見て、驚いた。
着信は、河口純からだった。結局、その名前を見つめたまま、出ることができないでいると、着信は切れてしまった。
スマートフォンを握りしめる。
恋愛を父親によって終了させられた情けない男。わたしを理不尽な形でふった後、謝罪の連絡さえよこさなかった男だ。とても話す気持ちにはなれない。
すると、また電話がかかってきた。
ため息をつく。
このまま出ないでいると、どうせ何度もかかってくるだろうし、わたしが悪いわけでもないのに逃げるのは癪に障る。仕方なく、電話に出ることにした。
<もしもし>
その一言にも、せめてもの怒りを滲ませてみた。
<あ、おれ。ミキちゃん、連絡するのが遅くなって、本当に申し訳ない>
純の方は、あまりいつもとは変わらない声だった。
<終わったことだし……>
<会って話したい。お詫びをしたいんだけど>
<だから、もう、終わったことだから>
<頼むよ。一生謝っても、許してもらえないと思うけど>
謝罪をすんなり受け入れるかどうか、ためらいが生じる。
<いま会社を休んでいるって聞いてさ。今日はなにしているの?>
<これからドライブに行こうと思っていたところ>
<あ、じゃあさ、1時間か2時間でいいからつきあってもらえないかな? 俺がこれから迎えにいくよ>
<いい>
<いいって、どっちの意味?>
<わかった。わたしが向かうから、いい>
わたしは2000GTのアクセルを踏み込んで、河口純のマンションに向かった。
<続く>
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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