【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#19
第5話「父の失踪事件を調査せよ!」
4th ミキ、河口親子と対決!?
#19 純と和解
わたしは横浜のみなとみらいで、久しぶりに再会した河口純と会話を交わしていた。場所は、2000GTの中。わたしが運転席、彼は助手席だ。
「まさかミキちゃんのお母さんと不倫をしていたなんてさ。俺にとっては、父であり、上司でもあったわけだからね。どう受け入れるべきか、複雑な心境だったよ」
「上司でもあった?」
過去形になっていたのが気になって確認した。
「あ、俺さ、事務所は辞めたよ」
事情を呑み込むまで時間がかかった。
「え、嘘でしょ?」
純はかぶりをふった。
「嘘じゃないさ」
「じゃあ、いまは?」
「まあ、弁護士は所属事務所があったとしても、もともと個人商店みたいなものだからさ。普通に個人で仕事をしているよ」
わたしも有給消化中だから、同じ立場だねと言いそうになったけど、職種的にぜんぜん違うようだ。彼には有給そのものがないらしい。
「あ、それから、最近、事務所を辞めるための挨拶回りをしていてさ、松井社長や周藤さんに会ったんだ」
お世話になった2人の顔が浮かんで、少し温かい気持ちになった。
「元気だった?」
純がニヤリと笑った。
「ミキちゃんのこと、心配していたよ。なんで別れたのか聞かれて、適当にごまかしたけど、周藤さんには通じなかっただろうな」
「そ、そうなんだ」
もう一緒に仕事をするつもりはないけれど、ちょっと複雑な心境ではある。
「で、思ったけどさ、周藤さん、ミキちゃんに気があるよな……」
それを聞いて吹き出しそうになった。
「いや、ないないない」
わたしは必死に否定していた。
「あるあるある」
わだかまりがあったけど、それをきっかけに、2人で笑い合う。
「あ、ところでさ、ミキちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「何かしら?」
純が何を言い出すかはわかっていた。
「この車、ちょっとでいいから運転させてくれないかな?」
わたしは少し考えて返事をした。
「ひとつだけ、条件があるんだけど」
「なにかな? 俺はミキちゃんのためだったら、どんな条件ものむよ」
<続く>
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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