【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#20

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

4th ミキ、河口親子と対決!?
#20 ヨタハチとの再会

わたしは2000GTに乗って、横浜の旧車ショップに向かっていた。
​ 昨夜、河口純とのドライブから戻ると、水野から電話があったのだ。エンジンにトラブルを抱えていたわたしのヨタハチがついに復活したらしい。
2000GTを返却する約束の日までもう1日だけあったから、すぐに取りに行くのはちょっと惜しいような気もしたけど、きっと水野は少しでも早くヨタハチを仕上げようと頑張ってくれたはずだ。
わたしは誰もが羨む往年の名車を十分に堪能することができた。別れは寂しいけど、愛車が帰ってくるのだから、何も文句はない。
少しだけ遠回りしながら、ゆっくりと、水野の待つお店に向かう。それでも、事前に到着時間は伝えていたので、遅れないように駐車場に乗り入れた。
すぐに、水野が駆け寄ってきた。
「車、どこも異常はないよね?」
水野が2000GTの白い車体を手でさすり始めた。
「はい、水野さんの命を預かっていると思って、気をつけて運転しましたから」
わたしは水野に鍵を手渡すと、他人の大事な車を預かっているという緊張感から解放されて、伸びをした。
「どこにいっても人が集まってきて、うかうかカフェにも入れませんでしたが、日本が世界に誇る名車を満喫させてもらいました」
「楽しめたならよかったよ」
水野は帰ってきたわが子のことで胸がいっぱいなのか、心ここにあらずという感じだ。車体を一周して、状態をくまなくチェックしている。
「あ、ごめんごめん。ミキちゃんにはヨタハチを返さなきゃいけないね」
「はい、お願いします」
水野の背中を追って、整備ルームに入っていった。
「俺も試運転して何度かチェックさせてもらったけど、問題ないよ。いいエンジンが手に入ってよかったね」
「わあ、ありがとうございます」
「何人か、お客さんから売り物ですかって聞かれちゃったよ」
わたしもヨタハチの赤い車体を手でさすっていた。
「エンジン、かけてみて」
「はい、いますぐ」
わたしはヨタハチの運転席に乗り込んだ。やはり、シートが体に馴染んでいて、しっくりくる。
水野が心配そうに近づいてきたので、わたしは慌てて、右手でレバーを高速で回して窓を下げた。
少し緊張する。
キーをまわすと、馴染みのある大きなエンジン音が響いて、車体にゆっくりと振動が伝わってきた。2000GTとはまったく違うけど、これがわたしの愛するヨタハチのエンジンだ。
「どうだい?」
顔を外に向けると、水野が頬を緩めている。
「いい音ですね!」

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

[ガズー編集部]