【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#22
第5話「父の失踪事件を調査せよ!」
4th ミキ、河口親子と対決!?
#22 仁との話し合い
わたしは河口綜合法律事務所の所長室で、河口仁と対峙していた。
「単刀直入に聞きますが、先生がわたしの父を殺したのではありませんか?」
仁が頬を緩めた。声を立てて笑い始める。
「もしかしたら、結果的にはそういうことになるのかもしれないな……」
よくわからない回答だった。
「先生が父をフィリピンにおびき出して、カヌーに乗せて、転覆させたという事実を認めるということですか?」
仁が目を細めて首を振る。
「わたしはこう見えても、弁護士だよ。さすがにそんなことはしない」
「そうでしたね、すっかり忘れていました」
わたしは精一杯の嫌みを投げかけてみた。
「あいつはフィリピンに行く前に、人生をリセットしたいと言った」
「リセットとは? なぜフィリピンなのですか?」
仁が両手を広げて、知らないとでも言うように、大げさなジェスチャーをした。
「察しはつくが、本当のところはわたしにもよくわからない。真相は藪の中だ」
仁がゆっくりと目を閉じた。
「いいえ、先生は、真実を知っていますよね?」
仁が溜息をついて、再び首を横に振った。
「わたしが、彼に対しても、そして、君に対しても、罪深いことをしたのは認める。わたしは彼に謝罪した。彼がフィリピンに向かった原因はわたしにあるのかもしれない。だが、彼の失踪とわたしとは直接関わりはない。彼がなぜいなくなったのかはわからないんだ」
「いえ、先生はきっと嘘をついています。何かを知っているのに、わたしに教えるつもりがないように感じます」
仁が宙を見上げた。
「知らない方がいいことだって、世の中にはたくさんあるんだ」
「そうかもしれません。でも、それでは前に進めないことだってあるんです。わたし、フィリピンに行って調べてこようと思っています」
仁が渋い表情をしてから、舌打ちをした。
「わたしはもちろん止めないよ。止める権利などない。自分の目で、納得できるまで調べてみるのもいいだろう」
「母は強く反対しているんです」
仁が肘をデスクにのせ、両手を組んだ。
「そりゃあそうだろう。夫があんなことになった場所なんだから。せめて誰かと一緒に行くべきだ。ひとりで行くのは危険だから、やめたほうがいい」
「そうですね。弟は巻き込みたくないのですが、本当にあなたの子どもではありませんよね?」
「それは間違いない。本当に一時期の過ちだったのだ。この通りだよ」
仁が頭を下げてから、わたしはすぐに椅子から立ち上がった。
いまは、これ以上追及しても新たな情報が出てくる気配はない。でも、彼がなにかを隠しているのは間違いないような気がした。
<続く>
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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