【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#23

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?
#23 周藤から電話

河口綜合法律事務所を後にしたわたしは、ヨタハチをゆっくりと走らせて自宅に向かっていた。
​ 何度も河口仁の憎たらしい表情が蘇ってくる。
真相に迫れなかった悔しさが残る。でも、次の一手への布石は打てたつもりだ。
運転していると、助手席の上のスマートフォンが着信を告げた。
車を停めて確認すると、着信は周藤からだった。鼓動が早まる。周藤が電話をかけてくるなんて、いったい何事だろうか。
すぐに電話をかけなおす。
<いま、どこにいる?>
切迫感が伝わってきた。
<家に帰る途中です>
<河口仁が、誘拐されたらしい>
意味を理解するまでに、少し時間がかかった。
<え、そんな。わたし、さっきまで会っていたんですよ>
わたしは大声で叫んでいた。
<そうらしいな……。だから、電話をかけたんだ>
わたしが事務所を出た後すぐに事件が起きたということだろうか。
<どういうことなんでしょう>
<よくわからない。俺も、河口仁の秘書から突然電話を受けただけだ。それで、もしかしたらお前が犯人かもしれないと思ってな>
笑えない。
<冗談はやめてください>
<冗談みたいな、妙な誘拐なんだ>
<妙って、なにが、ですか?>
<犯人の要求はお金じゃないらしい。警察には連絡するなと河口仁本人が言っているそうだ>
いったい、どういうことなのだろう。
<俺はいまから河口綜合法律事務所に向かうところだ。お前もすぐに来い>
<承知しました>
わたしは、すぐにヨタハチで引き返す。
さっきまでわたしがやりあっていたあの男が、突然誘拐された。
しかも、いろいろ不自然な点があるという。
なにが起きているのか。
わたしは、同じコインパーキングに再びヨタハチを入れた。周藤の運転するマークXも停めてある。
駆け足でビルに向かった。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]