【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#24

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?​​
#24 久しぶりの周藤

わたしは東銀座の河口綜合法律事務所に飛び込んだ。今日2回目だ。
​ 事務所内はピリピリとした緊張感に包まれている。秘書に案内されて所長室に入ると、わたしに気づいた周藤がわずかに顔を揺らした。
「お久しぶりです」
わたしは、さっき仁が座っていた場所に腰を下ろした。
「単刀直入に聞かせてもらう。お前が河口仁と話していた内容はなんだ?」
いつもの調子で凄まれた。
「……その前に、簡単に事情を聞きたいんですけど」
立ったままこちらの様子を伺っていた秘書に目線を向けると、ゆっくりと話し始めた。
「上山さんがお帰りになってから間もなくのことでした。ランチに出ると言って先生が事務所を出たんです。それからかなり時間が経っても帰ってこなかったので、おかしいなと思っていると、先生から電話がかかってきて……。何者かに連れさられ、目隠しをされた状態で、どこかに移動している。午後の予定はすべてキャンセルするようにと。ただ、恐らく命の危険はないし夜には解放されるはずだから、警察には絶対に言うなと。そして、インスペクションの周藤さんに連絡を取るように言われました」
確かに、妙な誘拐事件だ。命の危険がないと感じているということは、本当は、仁には犯人がわかっているのではないだろうか。
「で、俺に電話がかかってきた。事務所を出る前にお前と話し合いをしていた、深刻そうな内容だったと聞いて、まっさきにお前を疑ったよ」
周藤からかかってきた電話が蘇ってきた。
「冗談じゃなくて、真剣にわたしが誘拐犯だと疑っていたわけですね……」
「で、どんな話をしていたんだ?」
周藤の鋭い目線が向けられた。
「それは、わたしの父の失踪に関わることです」
「話せないことなのか?」
「い、いえ、そういうわけでもないのですが……」
秘書がこちらをうかがっている。
「わたし、外しましょうか」
2人で頭を下げた。ドアが閉まる。
「あの、本当に警察には言わなくていいのですか?」
「河口仁がそう望んでるんだ。なにか事情があるんじゃないか?」
誘拐された本人が、警察に通報されたくない事情。
「仁先生の狂言という可能性はどうですか?」
周藤が頷きつつアイスコーヒーに手を付けた。
「河口仁の一人芝居という可能性もありえる」
「おかしな事件ですよね……」
「一人芝居だとしたら、なぜそんなことをするのか? 本当に誘拐されたんだとしたら、なぜ通報されたくないのか? どちらにせよ、なにか事情があるんだ。お前の知っていることを話せ」

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]