【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#25

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?​​
#25 犯人の心当たり

ボスが誘拐された河口綜合法律事務所。
​ 秘書が外してくれたことで、主のいない所長室で、周藤とふたりきりになった。なんとも不思議で違和感のあるシチュエーションだ。
わたしは、周藤からの質問に応えなければならなかった。数時間前、わたしと仁がなにを話していたのかを。
「まず、とても言いづらいことなんですが……でも、とても重要なことです。実は、わたしの本当の父親は、河口仁先生でした」
周藤は険しい表情だが、特に驚く様子もなく、アイスコーヒーに口を付ける。
もしかしたら、知っていたのだろうか。
「それは本気で言っているのか?」
「冗談を言っている場合じゃありません」
周藤が再びアイスコーヒーのストローに口を付けようとしたが、口に入らなくてまごついている。動揺しているのかもしれない。
「なるほど、お前が河口純と別れたのは、そういうことだったのか……」
知っていたわけではないようだ。
「そのことを、お前はいつ、どうやって知ったんだ?」
わたしに質問が投げかけられた。
「つい最近のことです。母から聞きました」
周藤は険しい表情を崩さない。
「お前の母親は確か、海外旅行に行っていたらしいな」
「はい、わたしの父の手紙が見つかって……。というか、手紙を預かってくれていた人がいたのですが、その手紙がわたしに渡ったことを知って、母はわたしから逃げるようにして旅行に行ってしまったのです。でも、先日帰国して……」
「お前の父親の件は、母親から打ち明けてきたのか?」
わたしはかぶりをふった。
「父からの手紙には、自分は実の父親じゃないとだけ書かれていました。それが誰なのかは、わたしが母を追求して白状させたんです」
周藤が煙草を取り出した。
「あの、ここは禁煙です」
わたしが止めると、周藤が取り出した煙草をすぐにしまった。
「なるほどな」
周藤がおもむろに立ち上がった。
「周藤さん、わたし、犯人に心当たりがあります。いま、話しながら思い当たりました」
周藤は同意を示すように頭を軽く揺らした。
「おれもだ。お前が犯人じゃなければ、疑わしいのがもう1人いる」
わたしはゆっくりと頷いた。
「たぶん、同じ人だと思います」
わたしたちは、事務所を後にして、駐車場に向かった。
「わたしに着いてきていただけますか?」
周藤が何も言わずに頷いた。
わたしはヨタハチに乗り込み、周藤はマークXに乗り込んだ。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]