【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#26

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?
#26 誘拐犯

わたしと周藤は別々の車で、ある場所に向かっていた。港区白金の河口仁の屋敷だ。
​ 東銀座からはそれほど遠くない。すぐに到着して、わたしは自分の勘が正しかったことを知った。
仁の自宅の前に、純のポルシェ911カレラが停まっている。車を覗き込むと、運転席のテレビモニターに純と仁の映像が映し出されていた。
ポルシェのドアにはロックがかかっていなかった。わたしと周藤で乗り込む。わずかに、純がカメラに反応した気がした。
映されているのは、仁の所有するレクサスの車内のようだ。運転席には純が、助手席には仁が座っている。
<お前、いい加減にしろよ。自分がなにをしているのかわかっているのか>
マイクが取り付けられているのか、声がしっかりと拾われて、ポルシェのスピーカーから響いてくる。
<たまには親子げんかもいいじゃないですか>
純が不敵な笑みを浮かべている。
<お互い弁護士です。はっきりさせましょう>
そう言うと、純が仁を睨みつけた。
<上山さんの10年前の失踪事件ですが、あなたが上山さんを殺したのですか?>
<いや、それは断じて違う>
仁の落ち着いた声が聞こえてくる。
<本当ですか?>
<当たり前だ>
強い口調で否定の言葉が返ってきて、わたしも安堵した。
<そうですか、よかった。安心しましたよ。殺人を犯した弁護士の息子だなんて、あんまりですからね>
<お前は、わたしのことを疑ったのか>
<疑いたくはなかったですけどね。でも、なにかあると考えるのが当然でしょう>
<愚かな……>
<ぼくは、ミキちゃんのことを本気で幸せにしようと思っていました。いまさら無関係ではいられない>
<それについては申し訳ないことをしたと思っているよ>
<彼女を傷つけた。この罪は重いですよ>
<もちろん、そんなこと、わたしが一番わかっている。一生かけて償うつもりだ>
仁はそんなことを考えていたのか……。
<まさか、こんなことになるとは思わなかった。お前が、彼女を好きになるなんて……>
<あなたが想像できないはずがない。いままでずっと弁護士をやってきて、ありえないようなことが実際に起きてしまうのをよく知っているはずです>
<生意気な口を利けるようになったもんだな>
<ええ、おかげ様で>
純がまた仁を睨みつけた。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]