【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#28

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?​
#28 上山家の罪​

<美人局にあった上山は、1000万をはるかに越える金を請求されたらしい。困り果てたあいつは、自分の妻に送金させたんだ>
​ 仁は真相を最後まで話し続けた。
<ちょっと待ってください。ということは、上山さんは失踪に見せかけた保険金詐欺を……>
純の声が上ずった。我慢してきたのに、わたしの頬を涙が伝った。
<あとから聞いた話だから、わたしはなにも追求しなかった。己の胸の中にだけしまって墓場まで持っていこうと、あの日、誓ったのだよ>
<この話は嘘じゃありませんね?>
<いまさら嘘をついてなんになる? 俺もすべてを知っているわけじゃないと思うが、知っていることは全部話している>
仁の言葉に淀みはない。
仁は純に釘を刺すように迫った。
<いいか、これは終わったことなんだ。正義のヒーローぶって、下手に話をぶり返してしまえば、上山家が崩壊してしまうかもしれないことを忘れるな>
その言葉がわたしの胸に突き刺さる。だから、仁はわたしに本当のことを言えなかったのだ。
<わたしは当時なにも知らされなかった。もちろん、その時に相談されていたら、弁護士としても、友人としても、どんな手を使ってでもなんとかしていたよ>
純の溜息が聞こえてきた。
<上山さんのその後は? 日本から送金してもらって、お金はなんとかなったんですよね?>
<罪の意識に苛まれてダメになったそうだ。あいつはきちんとした男だったからな……>
<ダメになったとは?>
<アルコールにおぼれて、最後は結局、自殺したそうだ>
涙が止まらない。周藤にハンカチを渡される。
<それはどこからの情報ですか?>
<わたしはあいつの消息を自分の目で確かめるために、フィリピンに渡った。そして、彼が最後の時間をともに過ごしたフィリピン人女性に話を聞いたんだ。海から身を投げたと話していたよ>
<でも、それも証拠はないわけですよね>
<ああ。でも、この事実を日本の警察に伝えたところで、どうにもならない>
純は大きな溜め息を吐き出すと、伸びをした。そろそろ手仕舞いにするつもりのようだ。
<上山さんについては、真実を話していただいたということはわかりました。ただ、この話を聞いた以上、はいそうでしたかで済ますわけにはいきません>
<ん、どういうことだ?>
<あなたは人間としても、弁護士としても、失格だ。代表にはふさわしくない。潔く、その地位を譲って下さい。今までの会話はすべて録画していたので、言い逃れはできません>
そこで、純がカメラに手を伸ばし、映像は終わった。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]