【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#29

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?
#29 純の行動​

わたしと周藤は、河口純のポルシェ911カレラの中にいた。純が仕掛けた仁への攻撃を映像で目の当たりにしていたのだ。
​ 河口家の車庫のシャッターが上がっていく。中から2人を乗せたレクサスLS460が出てきて、急加速して走り去った。置いてあるヨタハチとマークXに気づいたはずだ。
「まさか、すべてお前が仕組んだことなのか?」
周藤が口を開いた。
「とんでもない」と否定しかけたけど、思い直す。
「ただ、結果的に、そうなってしまったのかもしれません……」
最近、仁からも同じような発言を聞いた気がした。そうだ、あれは、仁がわたしの父を殺したのではないか、という質問への答えだった。
周藤がため息を吐き出して、不機嫌な表情を見せた。
「説明しろ。どういうことだ?」
わたしは背筋をピンと伸ばした。
「数日前に純先生と会ったとき、わたしの父の失踪について、仁先生から真相を引き出す手助けをして欲しいとお願いしたんです」
数日前の純とのドライブ。その時2000GTを運転させた見返りとして、協力を頼んでいたのだ。きっと、別に車の運転がなかったとしても、純は応じてくれたはずだ。わたしに負い目があったし、弁護士として自分自身が真相を知りたかっただろう。
「じゃあ、誘拐事件が起きたとき、さらったのが河口純だということは知らなかったのか」
コックリと首を縦に振った。
事務所で仁に切り込んでみて、もしも真相を引き出すのが難しそうだったら、その時は純に協力してもらおうと思っていた。それにしても、まさか純がこんな大胆な行動に出るとは。
「誘拐事件を主導したのがお前で、俺に聞かれてもしらばっくれていたとしたら、それはそれでずいぶんスキルが上がったと褒めてやったところだったんだがな」
周藤が煙草を取り出した。
「あ、この車は禁煙のはずです」
周藤が何事もなかったように、すぐに煙草をしまう。
映像の最後で、純は代表の座を奪おうとしていた。どうなるかわからないが、もしかして、仁なら、あっさり譲るかもしれない。
「血は争えないということなのか」
周藤がつぶやくが、わたしにもその血が流れているだけに、なんとも返答に困る。
でも、わたしはそれを背負って生きていくしかない。
「しかし、俺がなぜこの事件に巻き込まれるのか意味がわからないな」
周藤の指摘はもっともだった。
わたしたちは、純の車から降りて自分たちの車に向かった。
振り返ると、大きな河口家の屋敷が寂しげに佇んでいた。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]