【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#30

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

5th 仁、誘拐される!?​​
#30 周藤とドライブ

周藤に「今度は俺のあとについてこい」と言われ、マークXを追いかけていくと、五反田にあるインスペクションの契約駐車場に到着した。
​「ちょっとだけ、俺にヨタハチを運転させろ」
「わかりました」
わたしは運転席から助手席に移った。周藤はヨタハチを銀座方面へ走らせる。どうやら河口綜合法律事務所に向かうようだ。
「最近また、やっかいな調査の依頼が増えてきた」
「どんな案件が多いのですか?」
「高齢者が絡んだ事故や事件が多いな。痛ましいことだ」
少子高齢化が進む中で、高齢者の交通事故はこれからも増えていくのだろう。一方で、自動車メーカー各社の研究や開発も進んでいる。すべての人が安心安全に暮らせる交通社会が実現されればいいのだが。
「人手が足りていないんだ。それなのに、わけのわからない誘拐事件に引っ張りだされていい迷惑だよ」
もしかして、遠回しに仕事に戻ってこいと言われているのだろうか。
「いろいろあったにせよ、謎は解けたのだろう。早く戻ってこい」
周藤に、そうはっきりと言われて驚いた。もちろん、嬉しさはある。
「そ、そうですね」
窓の外に目をやった。世の中はゴールデンウィークに入ろうとしている。
「わざわざフィリピンに行く理由もなくなったはずだ」
確かに、言われてみればそうなのかもしれない。
「ところで、お前いま2000GTに乗っているらしいな」
それを聞いて思わず苦笑いした。きっと純が話したのだろう。
「運転させろ」
「え、すみません、返却してしまいました」
「なんだと!」
「ヨタハチの代用車だったのですが、戻ってきまして」
周藤が大きく舌打ちした。
「仕方ない。これで我慢するか」
「なんですか、それ! わたしじゃなくて、ヨタハチに謝ってください」
数奇屋橋交差点を赤信号で停車する。青に変わった。
わたしの抗議を無視した周藤が動き出そうとした途端、ヨタハチがエンストした。
後ろのベンツから、クラクションを鳴らされる。周藤が焦るが、そのせいでまたエンジンがかからない。こんな銀座のど真ん中で立ち往生してしまった。
「なんなんだよ、この車!」
周藤がまた舌打ちして、わたしは吹き出した。
「車は心で走るものです。周藤さんが、ヨタハチを怒らせたんですよ」
銀座を歩く人たちがこちらを心配そうに眺めている。悪くないドライブだと思った。

<了​>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

 

 

[ガズー編集部]