【SEMA特集】ホンダ・S2000(AP1)、アメリカを代表するトップビルダーが生み出した驚異のカスタム

1999年に発売されたホンダ・S2000は、アメリカでも非常に人気の高いオープンスポーツだ。事実、発売初年度こそ日本での販売台数のほうが多かったが、2年目以降はアメリカが逆転。人口の多さを考えれば当然ではあるが、日本での販売台数が年々減っていったのに対して、アメリカでは2002年まで増加の一途を辿ったというから驚きだ。

2009年に生産を終了して以来、ホンダのFR車が姿を消してしまったこともあり、2000年代のクルマでありながら、既に希少性すら感じさせるS2000。最近のスポーツカーにはないスマートでクールなデザインも人気に拍車をかけ、現在、ホンダ車を愛好する若い世代からも熱い視線が注がれている。

そんな中、SEMAに驚きのS2000を出展したのが、アメリカでも屈指のホンダ・ビルダーとして知られている“Rywire(ライワイヤ)”だ。2015年のSEMAに、モータースポーツからインスパイアされたアイデアを圧倒的な技術力で具現化したインテグラ・タイプRを出展。栄えあるSEMAバトル・オブ・ビルダーズのトップ10に選出され、一躍脚光を浴びた。2016年にも、製作に大きく関わったプレリュードが同じくトップ10入りを果たすなど、常に最先端のクルマ作りを提案している。そのライワイヤの代表であるライアン・バセリに話を聞いた。

「僕は子供の頃からスポーツが好きで、特にスケートボードとかBMXが好きでした。それから自然とレースや四輪車にも興味を持つようになったんです」と語るライアン。世の東西を問わず、男の子が乗り物に興味を示すのは、やはりごく自然な成り行きのようだ。

「最初にホンダ車に興味を持ったきっかけは、叔父でした。叔父はホンダが好きで、僕が16歳になった時にCR-Xオーナーが集まるカーミートに連れて行ってくれたんです。それで僕もすっかりCR-Xが気に入ってしまって、その後、実際に購入したんです。当時はトヨタのMR2やVWのコラードなど、欲しいクルマはほかにもあったんですけど、CR-Xが一番安かった(笑)。あと、モディファイするのも簡単だったんですよ」

その時のCR-Xとの出会いが、ライアンの後の人生を大きく方向づけたことは間違いない。だが当時、ライアン自身はそんなことを知る由もなく、ただ純粋にCR-Xのモディファイを楽しんでいた。ある時、CR-XのエンジンをB16型のVTECエンジンに載せ換えることを決意したライアン。いわゆるエンジンスワップであるが、ライアンにとってはそれが初めてのチャレンジだった。

エンジンスワップには、いくつかクリアしなければならない重要な課題がある。第一は、もちろんエンジンとトランスミッションを車体にどうやって載せるかという物理的な問題だ。そして、コンピュータなどの電気的配線を行ったり、オイルや冷却水、燃料などのラインを新たに作り直すことで、ちゃんとエンジンがかかるようにするのはもちろん、クルマが普通に走行できる状態にまで仕上げなければならないのである。

その点において、ライアンは類まれな才能を開花させた。ライアンはCR-XにB16型を搭載するにあたり、オリジナルのワイヤーハーネス(複数の電線を束ねて両端にコネクタを備えた部品)を開発。ライアンにとってそれは単純に「自分が必要だったから」作ったのだが、そのうち「自分も同じものが欲しい」というカスタマーがあらわれ始めた。まさに必要は発明の母。ライアンはネットを通じてオリジナルのワイヤーハーネスを販売するようになり、それが現在のライワイヤの原点となっている。

ライワイヤの最新作ともいえる今回のS2000。F20C型VTECエンジンは、ビシモトのストローカーキットにより、ボア×ストロークは88×103mmまで拡大され、排気量は2.5Lへとスープアップ。圧縮比は14.5:1にまで高められている。そして最大の特徴は燃料系の刷新だ。キンスラーのITB(独立スロットルボディ)には合計8つのインジェクターが装備され、ライワイヤの手でドライブ・バイ・ワイヤ(電子制御スロットル)へとコンバートされている。

「8インジェクターのアイデアは、まず使用するコンピュータ(AEM インフィニティ 8H ECU)が8本のインジェクターを独立制御できるところから発想しました。4気筒エンジンに合計8本のインジェクターを備えて、4本ずつ低回転域と高回転域で機能させたらどうだろうと考えたわけです。吸気ファンネルの前にインジェクターを設けるアイデアはF1のエンジンでも採用されていましたし、より燃料の霧化を促すことができます。ドライブ・バイ・ワイヤのサーボをスロットルに追加して、ペダルはスバルの純正部品を流用しました。ECUが8本の各インジェクターを独立制御するシステムを、いちから作り上げたわけです」

さらりと言ってのけるライアンだが、その発想力と実行力は、やはり並大抵ではない。

エクステリアはカスタムでワイド化した無限の前後バンパー、リヤウイング、ボンネットを装備。カスタムのサイドスカートとクォーターパネルも装備し、ポルシェのカレラホワイトで全体をペイントしている。

ホイールはレイズのZE40で、サイズは18インチ。ストップテックのブレーキ、KWのV3コイルオーバーを備え、ローダウンを実現している。

インテリアはシンプルで、レカロシート、無限のステアリングなどを備え、カスタムのロールケージも装備した。

「僕はいつも自分自身にチャレンジしたいと思っています。人とは違う、唯一無二の、楽しいクルマを作りたい。プロのビルダーになって、自分の能力を試す場を得ることができました。これからも、皆んなをあっと言わせるような挑戦をしていきたいです」

そう力強く語るライアン=ライワイヤ。世界中のホンダフリークが、その動向に注目するのも、無理からぬ話である。

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road