【ミュージアム探訪】ポルシェミュージアム(後編)

ポルシェミュージアムでは、クルマは変則的な2フロアを用いて展示されている。ひとつの大きな直方体状の空間ではないから、ひと目では見渡せない。でも、そこがいい。柱やクルマの影には何があるのか。前へ前へと、歩みが促される。

また、来場者に展示車を紹介するうえで、下のような6つのキーワード(ポルシェは“理念”と称している)を設定しているのも展示コンセプトのひとつになっている。

軽量化 356アメリカロードスターとタルガフローリオ
インテリジェント 356B/2000GSカレラGTとコンセプトカー
スピード 911カレラRS2.7クーペとルマン24時間耐久レース
パワー 911ターボ3.0クーペと917の時代
徹底 959クーペとモータースポーツ
継続性 911とその進化
レーシングカー「ポルシェ917」シリーズの展示コーナー
ポルシェ・ボクスター コンセプト
ポルシェミュージアム内観

興味深かったのが、ポルシェ・エンジニアリング社が携わったクルマの展示だ。同社は、他企業や国家などから依頼を受けて、さまざまな開発を行っている。これは1931年にポルシェ博士が開設した自身の設計事務所から続く伝統だ。中国政府から依頼を受けて作り上げたファミリーカーのプロトタイプC88、1956年製のポルシェ・ハンティングカー、記憶に新しいマクラーレンMP4/1E。クルマのほかに、飛行機や船舶用エンジンなども展示されていた。
ポルシェの歴史とは、彼らが理想とするスポーツカーとSUVとレーシングカーを追い求めて来た歴史であるが、一方で、それと同じくらい開発能力を“求められた”歴史でもある。

またポルシェ本社のプロジェクトであっても、製品化に至らなかったり、テスト的に作られたりしたもの、製品化された姿とは微妙に異なるものなども何台も展示してある。誠実であり、サービス精神にあふれている。
例えば、924の開発段階のモデルなどは実車より明らかにカッコ悪いし、反対にボクスターのプロトタイプは実車よりも小さく引き締まり、インテリアも魅力的だ。

功成り名を遂げた自動車メーカーは、洋の東西を問わず、競うようにしてミュージアムを建てる。歴史を振り返り、未来を展望するのは、自社のブランドを浸透させるために重要な役割を果たすからだ。
ポルシェミュージアムは、その点において開設から成功を収めていると言える。建物の外観は建築家の主張が強すぎ、ポルシェのクルマやクルマ造りから伝わってくる控え目でストイックなところと同期しているとは言い難いが、一転して、内部の展示はポルシェのクルマのようにとてもよく考えられており、高い効果を挙げている。
6つの展示キーワードが説得力を持っているのは、ポルシェの理念とクルマ造りとの間のズレが小さいからだろう。歴史は決して捏造(ねつぞう)できるものではないが、訴求したいものに濃淡が生じてしまうのは致し方ない。人間だって、いい思い出は永遠に繰り返していたいし、悪い思い出はすぐにでも忘れたくなるではないか。

(文=金子浩久)

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[ガズ―編集部]

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