【ミュージアム探訪】メルセデス・ベンツ・ミュージアム(前編)
その昔、憧れの美人とドキドキしながら待望のデートを重ねた経験があるが、会った瞬間、「うわ、そう来るか?」「やられた!」と思わされたことが何度かあった。
「絶対ワタシにしか似合わないでしょ?できないでしょ?」という演出で来るのだ。たとえば超かわいいバリバリアイドル系の服とか、甘ったる~い言葉遣いとか。
話は一転するが、ドイツはシュトゥットガルトにあるメルセデス・ベンツ・ミュージアムも、それに通じるものがある。場所が歴史ある本拠地、ウンタートルクハイム工場の隣というだけではない。展示はメルセデス・ブランドにしかできない演出と構成で満ち満ちており、それがまたわかりやすく、クルマ好きなら誰でも感動できる。個人的には「ちょっとズルいんじゃないですか」と言いたくなるほどに。
テーマは以下のひとことですべて言い表せる。「メルセデス・ベンツの歴史は自動車の歴史」。実際にその通りなのだから、本当にズルい。
高さは50m弱と、10階建てマンションほどもある巨大な建物は、世界的な建築家であるオランダのベン・ファン・ベルケル氏とカロリン・ボス氏が手がけたもの。そのスタイリッシュな巨大ビルの中に、1886年に世界最初の自動車として生まれた三輪車「ベンツ・パテント・モトールヴァーゲン」に始まり、例えば最新型のW222型「Sクラス」に至るまで、160台ほどの選りすぐりの名車たちが並べられているのだ。
それもまるでデオキシリボ核酸のような、二重らせんの階層構造を持つフロアに、論理的かつコンビニエントな手法で。時折現れる連絡通路を使えば、詳しく見たくなった展示フロアに戻ることができるし、逆に興味のない部分をショートカットすることもできる。
しかも、全体としては600台以上のコレクション車両と1500点以上の展示物を収蔵。時折趣向を変えて別のストーリーを展示するから、何度来ても飽きがこない。
まさに実物版「クルマ百科辞典」であり「クルマ歴史絵巻」。なかでも白眉(はくび)は、おそらく常設展示であろう最上階のイントロダクションフロアだ。パテント・モトールヴァーゲンや、その直前に生まれたニ輪車「ニーデルラート」、馬車改造タイプの「ダイムラー・モトールクッツェ」、作業用の「ダイムラー・トラック」、FRの駆動方式を採用した「ダイムラー・フェニックス・レーシングカー」などを見ていると、ほとんど猿人アウストラロピテクスからホモ・エレクトス、ホモ・サピエンスと続く、人類の進化のクルマ版を見ているようだ。
こうやって、われわれ人間……つまりカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーという2人の天才はクルマを作り上げていったんだなあと、素直に感心できる。しかも、その歴史は今のメルセデス・ベンツへと自然につながっていくわけで、誰にでも楽しく、自動車ヒストリーが学べる。メルセデス・ベンツとしてもブランドのイメージアップがはかれ、大人ひとり8ユーロの入場料もとれるという(笑)。
これほどおいしい博物館がこの世にあっただろうか?と小沢には思えるほどなのだ。
(文=小沢コージ)
【編集協力・素材提供】
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[ガズ―編集部]
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