【モータースポーツ大百科】世界耐久選手権(前編)
1950年に創設されたF1世界選手権は、コンストラクターズ・チャンピオンシップより前にドライバーズ・チャンピオンシップが設定された(コンストラクターズ・チャンピオンシップの設立は1958年)ことからも分かる通り、本質的にはドライバーのための選手権である。これに対し、1953年に自動車メーカーのために設立されたのが世界スポーツカー選手権だった。当初よりフェラーリ、ジャガー、アストン・マーティン、ランチア、アルファ・ロメオなどが参戦。さらに、ミッレミリア、ルマン24時間、スパ24時間、カレラ・パナメリカーナなどの華やかなイベントが名を連ねていたこともあって、一時はF1をしのぐ人気があった。しかし、度重なるレギュレーション変更、公道レースの消滅、さらには石油危機などの悪条件が重なり、70年代にはF1の陰に隠れる存在にまで衰退していった。
こうした流れを一変させたのが、1982年に当時の世界耐久選手権(WEC)に導入されたグループCレギュレーションだった。この規則をひとことで言えば「エンジンの形式、排気量は何でもかまわない。ただし、1レースで使用できる燃料の上限のみ定める」となる。このため、ポルシェやランチアは小排気量ターボ(前者は2.65リッター、後者は2.6リッター)、ジャガーは大排気量自然吸気(NA)(6.2リッター)、メルセデス・ベンツは大排気量ターボ(5.0リッター)と、さまざまな形式のレシプロエンジンが登場することとなった。さらに、マツダはお家芸のロータリーエンジン(ヴァンケルエンジン)でWECに挑戦(排気量はいずれも参戦当初のもの)。1989年にはポルシェ、メルセデス、ジャガー、日産、アストン・マーティン、トヨタ、マツダと、実に7メーカーがワークスチームを送り込み、世界耐久選手権は隆盛を極めた。
このグループCレースで最も多くの勝利を収めたのは、ポルシェ956ならびにその後継モデルである962Cである。1982年のデビューから、1991年にグループCが後述のNA3.5リッター規定に変わるまでの9シーズンで実に41勝を挙げた。とりわけ強さを発揮したのがルマン24時間で、1982年から1987年まで実に6連勝を果たし、ポルシェがルマンで一時代を築くうえで見逃すことのできない役割を果たした。
ところで、燃料の使用量だけを規制し、エンジン形式を自由にしたグループCレギュレーションは、2014年のWECで導入された“エネルギー総量規制”と極めて近い考え方といえる。別の言い方をすれば、今季のWECレギュレーションはグループCレギュレーションを現代風にモディファイしたものともいえるわけで、この規定がいかに先進的で意欲的なものだったかがうかがえるだろう。
しかし、世界選手権を統括する立場にある国際自動車連盟(FIA)は、1991年よりエンジンをNA3.5リッターに一本化することを強引に決定。この影響で参戦メーカーは激減し、1992年をもってチャンピオンシップ(当時の呼び名は世界スポーツカー選手権、略称WSC)は幕を閉じることになる。
FIAがNA3.5リッターに一本化しようとしたのは、F1グランプリに参入する自動車メーカーが減少したため。WSCとF1で規則を共通化することにより、WSCからF1へと自動車メーカーを引き寄せることが目的だったとされる。しかし、コストの高騰などもあって自動車メーカーは次々と撤退、ついにはシリーズそのものが消滅することになったのだ。
世界耐久選手権(WEC)の名で、スポーツカーレースの世界選手権が復活したのは、それから実に20年後の2012年のことだった。
(文=大谷達也)
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[ガズ―編集部]
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