【ミュージアム探訪】スズキ歴史館(前編)

織機メーカーだった時代も含めると、100年を超す歴史を持つスズキ。スズキ歴史館は、本社の真向かいに位置している。
3階に上がるとまず目に入るのは、戦前の歴史を紹介するコーナー。階段の天井を飾っていた糸がサロン織機で織り込まれていくディスプレイに、スズキの起源が織機メーカーであったことを感じる。
スズキの創業者である鈴木道雄氏の胸像。
パワーフリーE2とともに紹介されているのは、初代社長の娘婿であり、二輪事業を起こした二代目社長の鈴木俊三氏。
スズキの四輪事業の原点となった軽自動車のスズライト。

静岡県浜松市と聞いて誰もが真っ先に思い浮かべるのがうなぎ、次いで四輪&二輪の世界的企業であるスズキだろう。JR東海道本線高塚駅(東海道新幹線浜松駅の隣の駅)から徒歩約10分、スズキ本社の真向かいにあるのがスズキ歴史館である。

開館したのは2009年4月。建物は地上3階建てで、横方向に幅広い構造が印象的だ。この歴史館、入館料は無料だが、インターネットまたは電話による事前予約が必要。地元だけではなく、遠隔地からの訪問者や小学校の社会科見学なども多いという。

エントランスは1階で、ここには現在同社で販売されている四輪、二輪の代表的車種の展示コーナーがあり、基本どのモデルもドアを開けて乗り込むことが可能だ。当然のことながら車種のモデルチェンジのタイミングなどには入れ替えが行われる。その奥にあるのが、団体向けなどに説明を行うウエルカムホールである。

多くの場合、この手の記念館や歴史館などでは自社のオリジナルグッズの販売などを行っているのだが、スズキ歴史館の場合、それが少しコンパクトな印象。正直言うとあまり商売っ気がないというか、グッズ類も少ない。スズキといえば四輪&二輪の世界的ブランド。個人的にはもう少し数を増やしてもいいかな、と感じた。

1階は少々地味な印象だったが、そもそも順路としては、エントランスをくぐったら一気に3階に上がるのが正しいそうだ。エレベーターもあるが、あえて階段で3階に向かってほしい。壁を使って、スズキの歴史や各時代の世相が紹介されているからだ。

3階はスズキという企業を知ることができる展示ゾーン。ここでは「創意」「開拓~勤勉」「実行」「革新~貢献」そして「挑戦」という、全部で5つのゾーンが創業期から時間軸の順に展示されている。

スズキの創業者は鈴木道雄氏。そのルーツは1909年に浜松で創業した鈴木式織機製作所にさかのぼる。株式会社となったのは1920年のことだ。このゾーンでは「創意の人、鈴木道雄」の創業時の開発ストーリーや、氏が発明した「杼箱(ひばこ)上下器搭載の足踏み式織機」などの展示を見ることができる。織機といえば思い浮かぶのが、トヨタ自動車の前身である豊田自動織機だが、くしくもこの両社は同じ東海エリアで創業した企業なのだ。

隣の「開拓~勤勉」ゾーンへ移動すると、ここでは「スズライト劇場」「スズライトキャリイ劇場」「二輪車開発物語」の3種類の展示が行われており、戦後間もなくの復興期、同社が織機で培った技術を基に、二輪、四輪事業に進出していく歴史を見ることができる。特に二輪車に関しては、既存の自転車に補助エンジンを取り付ける方式からスタートしたことが分かる。そうして1952年に発売されたパワーフリーE2から始まる50年代~60年代初頭の二輪車が、二輪事業を起こした2代目社長、鈴木俊三氏の銅像とともに飾られている。一方四輪車では、1955年に発売された初代スズライトSSを筆頭に、コーナーの名前にもなっているスズライト、スズライトキャリイ、そしてスズライトフロンテと、今日に続く四輪事業の嚆矢(こうし)となったクルマを見ることができる。

これだけ紹介しても、3階の展示物はまだこれで半分程度。とにかく、建物の外観以上(失礼!)に内容が濃いのだ。スズキのものづくりの原点を知るだけでなく、当時の世相や物価なども知ることができる貴重な展示の数々。後半では60年代後半以降と現在のクルマ作りに関する展示についてリポートすることにしよう。

(文=高山正寛)

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[ガズ―編集部]